若者たちは真面目に仕事をしようと思っても、「どうしたらいいか、わからない」と心が折れてしまいます。メンタル不調を防ぐ目標設定について解説します(写真:すとらいぷ/PIXTA)「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」
「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。本記事では、若者がメンタル不調になってしまう原因と、その対策について、書籍の内容に沿って解説する。

負荷が高すぎることが原因ではない

『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)

「メンタル不調」を訴える若者が増えている。

特にゴールデンウィーク明けは危険だ。新入社員が原因不明の体調不振に陥るのなら「五月病」を疑ってもいい。気の持ちようでなんとかなるのならいいが、そうでないなら「適応障害」「気分障害」のケースも考えられる。早めに病院へ行くべきだろう。

それにしても、なぜこのように「メンタル不調」になる若者が増えているのか? 「苦労は買ってでもしろ」というのは必ずしも古い考えではない。新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』にも書いた。ストレス強度を上げるためには、ストレスが必要だ。筋トレと同じで、それなりの負荷をかけない限りいつまで経ってもストレスに強くはならない。

そこで今回は、なぜ若者はメンタル不調に陥るのか? 上司の指導――特に目標設定に焦点を合わせて解説していこう。最後には目標設定に関するワンポイントアドバイスも紹介する。若者の指導や教育に悩んでいる多くの経営者、マネジャーはぜひ最後まで読んでもらいたい。

メンタル不調を起こす「目標設定」3つの理由

昨今「メンタル不調」を訴える若者が増えている。実際に多くの経営者から、このような話をよく聞く。

「プレッシャーをかけないよう、あえて目標を言い渡していない」

「丁寧に指導したつもりだ。にもかかわらず会社に来なくなってしまった」

経営者やマネジャーの言い分だけを聞いているのではない。私どもは現場に入って支援をするので、そのやり取りも実際に目にしている。比べていいかどうかわからないが、昭和の時代などと比べれば、ずいぶんと良くなっていると感じる。だからこそ

「私たちだって努力している」

「これ以上どうしたらいいのか、われわれのほうがメンタル不調になりそうだ」

と言うマネジャーたちの嘆きも理解できる。では、何が問題なのか? マネジャーがコントロール可能な範囲で意識すべきポイントは、1つだけだ。

「どうしたらいいか、わからない」

この一点である。若者たちは真面目に仕事をしようと思っている。何とかしたい、成果を出したい。そう強く思っているのだ。それなのに、どうしたらいいか、わからないのだ。

「考えてもわからない」

「考え方そのものがわからない」

と悩んでしまう。できないことへ自己肯定感の低下、周りへのうしろめたさからくる孤立感の高まりによって、若者たちの心が折れるのだ。その理由はどこにあるのか。私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。目標設定の視点で考えたい。理由は以下の3つである。

(1)目標がない
(2)目標が曖昧
(3)目標が高すぎる

まず(1)について解説する。

「え? 目標がない?」

と驚く人がいるかもしれないが、最近はとても増えている。上司が「過度のプレッシャーを与えたくない」と思うからだ。

しかし、目標を設定しない、与えない上司は完全に間違っている。なぜなら、目標がないことによって若者たちは「どうしたらいいか、わからない」状態から抜け出せないからだ。目的地を教えずに地図だけ渡される人の気持ち、わかるだろうか?

「ボチボチやればいいから」

「徐々にステップアップしていこう」

上司がこのように声を掛けるのはいい。しかし、これらは単なる「心掛け」「方針」だ。目標を言わずに心掛けだけを伝えても、どうすればいいかわからない。

目標には、必ず2つの要素がある。それが、

・具体的なゴールイメージ
・期限

である。資料を作ってもらうのも、お客様に電話してもらうのも、何か企画を考えてもらうのも、「いつまでに、何がどうなっていたら達成なのか?」をハッキリさせるべきだ。そうでないと、部下は迷子になってしまう。

それに仕事の依頼をする上司も、期待通りの仕事が見られなかったら、ダメ出しをするか、「ありがとう。あとはこっちでやるから」といって、見切りをつけて仕事を引き取ってしまうだろう。目標を与えていないのだから、上司の期待通りの成果を出せないのはあたりまえだ。当然、部下は気分よく仕事をすることができない。

部下を「迷子」にさせる曖昧な目標とは?

次に(2)についてだ。

曖昧な目標を言い渡すのはやめよう。

「この資料、なるはやで頼む」

「いい感じでやっておいてくれ。Bさんのやり方を真似たらいいから」

これでは、具体的なゴールイメージを持つことができない。『若者に辞められると困るので、強く言えません』にも書いた。上司の頭の中にはイメージがあっても、部下の頭にはそれがない。これを「情報の非対称性」と呼ぶ。深い霧の中で歩いていたら、誰だって気持ちが萎えてくる。そのような場所に導いたのが上司だったら、どうか? 当然、上司に対する信頼も揺らぐことだろう。曖昧な目標を言い渡すということは、そういうことだ。

また、若者に強く言えないので、優柔不断な目標を口にする上司もいる。

「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人は集客してほしい。ただ、あくまでも目標は目標だから、難しいのなら、それはそれで問題はない。もちろん私としては、10人は集客してほしいんだけど……」

これを言い換えれば、

「今夜7時までに、新宿駅東口のAというビルのエントランスまで来てほしい。もし難しいのなら、新宿駅の東口の辺りまででもいいし、何なら新宿駅まで来るだけでもいい。JRの改札でもいいし、小田急のほうでもいい」

こうなる。こんなことを言われたら、頭を揺さぶられているようなものだ。当然、

「今夜7時までに、新宿駅東口のAというビルのエントランスまで来てほしい」

と伝えられたほうが、部下は安心する。曖昧な目標は、相手を「どうしたらいいか、わからない」という状態に追い込んでしまう。

「目標の高さ」は慣れの問題

最後に(3)について。「目標が高すぎる」だ。

おそらく多くの人が、最初に(3)を思いつくのではないか。しかし目標達成の専門家からすると、それはありえない。単なる印象で決めつけているに過ぎない。そもそも「高すぎる目標」とは何なのか? 考えられるのは、

「不可能な目標」

「非現実的な目標」

である。日本の東京に住んでいて、

「これから1時間以内にニューヨークへ行ってくれ」

と言われたら「目標が高すぎる」だなんて思わないだろう。「不可能だ」「非現実的だ」と笑って言い返すことができる。「どうしたらいいか、わからない」なんて、頭を悩ますこともない。では、

「東京から大阪まで、車で6時間で行け」

と言われたら可能かもしれない。高速道路の状況にもよるが、理論上は達成可能だ。しかし、

・10年間、車の運転をしたことがない
・高速道路を走行した経験がない
・出発する時間が夜の11時

このような条件が加わると、「不可能」ではないが「難しい」となる。目標が高すぎるので、もっと低くしたらいいだろう。

「休みながら運転して、10時間かかってもいい」

「出発は朝でもかまわない」

などと条件を緩和すれば、「高すぎる目標」を防ぐことはできる。ただ、こんな目標を設定する上司がいるだろうか? 現実的にありえない。もしあったとしたらイジメである。しかも経験が浅い人は、目標の妥当性などわからない。どんな目標を言い渡されても「本当に達成できるだろうか」と悩むはずだ。だから、

「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人は集客してほしい」

と言われても、この目標が高いか、妥当なのか、わかりようがない。ストレスを感じるのは、目標の高さではなく、慣れない仕事を任されたからだ。

絶対に守ってほしい「目標設定」3つのポイント

以上、3つの理由から、目標設定を間違えると若者は「どうしたらいいか、わからない」となる。最悪の場合、メンタル不調を起こすだろう。

それでは、どのように目標を設定すればいいのか。ポイントを3つ紹介したい。

(1)目標より指標を決める
(2)指標を低くする
(3)小さな達成体験を意識する

まず(1)について解説する。

目標をKGI(Key Goal Indicator)とすると、指標はKPI(Key Performance Indicator)である。目標を目的地とすると、指標は経由地である。たとえば、フルマラソン(42.195キロ)を5時間以内で走りたいと思っても、経験が浅ければ「どうしたらいいか、わからない」となるはずだ。しかし、「1キロあたり7分のペースで」と言われたら、イメージがつく。つまりゴールイメージが湧くぐらいに目標を細分化(指標)するのだ。

「来週の金曜日までに、100人に連絡をして10人の集客をする」

であれば、

「8日間で100人だから、毎日15人に電話する。そのうち1~2人集客できればいい」

と変換する。そうすれば思考停止状態からは抜け出せる。

指標を低くする意外な手法

次に(2)の「指標を低くする」についてだ。

「8日間で100人だから、毎日15人に電話する。そのうち1~2人集客できればいい」

このように考えたとき、「毎日15人に電話する」は可能だが、「毎日1~2人を集客する」が可能かどうか。経験がある上司なら判断がつくだろう。

「毎日コンスタントに1~2人を集客するのは、ちょっとハードルが高いか」

そう判断したら「毎日15人に電話する」を「毎日30人に電話する」に修正するのだ。ハードルが高いからといって「毎日1~2人を集客する」から「2日で1~2人を集客する」としてはならない。

目標を下げてしまえば、部下の成長意欲は落ちてしまう。テストで「80点」を目指している生徒に「60点にしよう」と言っているようなものだ。だから、そこまでの努力の指標を落としてやるのだ。このケースでいえば、集客のコンバージョン率を低くすればいい。

「15人に電話して1~2人の集客」より「30人に電話して1~2人の集客」のほうが半分のコンバージョン率で済む。プロ野球で表現するなら、

「打率3割ではなく、打率1割5分で」とするのだ(※もちろん、毎日30人に電話することが物理的に可能であることが条件だ)。

絶対達成に不可欠な「小さな達成体験」

最後に(3)について。「小さな達成体験」だ。私がクライアント企業を支援するとき、最も重要視している要素でもある。

私は20年近く「絶対達成」をコンセプトに企業を支援してきた。

「絶対達成」というフレーズを聞くと、「厳しい」「怖い」というイメージを持つ人が多い。しかし、目標設定を間違えなければ「絶対達成」は難しくない。それどころか達成感を覚えられ、やりがいを感じたり、仕事そのものが楽しくなるものだ。

名著『7つの習慣』にも書かれてあるとおり、「終わりを思い描くことから始める」という習慣は本当に重要だ。イメージができない目標は、達成しようという意欲も落とす。

「フルマラソンで5時間を切ろう!」

というのは、単なるスローガンであり、意気込みだ。具体的なイメージを持つためには、目標そのものを細かく、小さくすることだ。

「1キロ先のあの場所まで、7分で行こう」

このように決めることで「達成体験」を多く積み重ねることができる。

「よし! 7分で行けた」

「4回連続で7分ペースで行けた!」

達成感を味わうことでモチベーションは上がるものだ。「小さな達成体験」を重ねることで自信が芽生え、大きな目標を達成できるようになる。

なぜ「小さな成功体験」は積み上げられないのか?

最後にワンポイントアドバイスをしたい。(1)目標より指標を決める、(2)指標を低くする、(3)小さな達成体験を意識する、の3つうち、最も重要なのは「小さな達成体験」である。一般的には「小さな成功体験」というが、なかなか難しい。なぜなら「成功」という概念がとても曖昧だからだ。繰り返すが、曖昧なものはイメージしづらい。

したがって「小さな成功体験」ではなく「小さな達成体験」を意識しよう。目標さえ適正であれば、必ず達成できる。

上司は小さな指標を設定し、小さな達成体験を意識していこう。若者を健全に育てるうえで、とても重要な考え方だ。

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