「人生100年時代」を提唱するロンドン・ビジネススクール経営学教授リンダ・グラットン氏(画像:東洋経済新報社)「人生100年時代」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。2016年に発売された『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)という本で提唱され、世の中に知られるようになりました。朝日中高生新聞は、『LIFE SHIFT』の著者の一人である英国の経営学者リンダ・グラットンさんに聞きたいことを読者の「朝中高特派員」から募集。そのうち中2と高1の生徒(当時)が、英国にいるリンダさんにオンライン取材し、本を読んで感じた疑問について英語もまじえて質問しました。

今は稼ぐ力より経験や学びを

Q 若くて体力があるうちにたくさん学ぶべきか、お金を稼ぐ力をつけるべきか。どちらが大切と考えますか。

リンダさん:自分が16歳だったころを思い出すと、かなりいろいろなスキルを獲得していた時期でした。その一部は今につながっていますが、あまり関係なかったものもあります。

世界は急激に変化していて、将来的にどんなスキルが必要になるかを断言するのは難しいと思います。どんな将来になるかわからないとき、まずは、いろいろな経験を積んだり、新しい知識を獲得したりして学ぶことを楽しむのが大切ではないでしょうか。

Q 日本の中学生・高校生は受験勉強に追われて、自分の興味を見つけたり、自分と向き合ってじっくり考えたりする機会や時間がないように感じます。どうすれば中学生・高校生が自分への理解を深められると思いますか。

リンダさん:日本の若い人たちは100年以上の人生を送る人も多いでしょう。だから自分について理解するための時間はたっぷりあります。

重要なことは人生のさまざまなステージでいろいろなことを試す時間を確保することです。そのためには両親を説得しなければならないし、日本の社会も変わらなければならないでしょう。例えば試験勉強のための時間をほかのことに使うことが、ゆくゆくはプラスになると主張していかなければいけないでしょう。

私の息子は高校卒業から大学に入るまでの1年間をインドや中国、シンガポールに出かけてジャーナリストのような仕事をして過ごしました。彼はこの経験で世界についての理解を深めました。人生100年時代では、若い時代の1年間を世界を見て回ることに費やしても結局はプラスになると思います。

親も子も互いに理解し合って

Q 親は自分が経験したことを基準に話をするので、私が大学卒業後に就職しないと言ったら、止められる気がします。今までの一般的な成功ケースから離れる行動をとりたいとき、どう伝えたら親を説得できるでしょうか。

リンダさん:どの世代にとっても、次の世代の生き方を考えるのは難しいことです。あなたのご両親が生きてきた時代とあなたの時代も大きく違います。だから、子どもも親もお互いを理解し、共感しようという気持ちを持つことが大切だと思います。

大学を卒業後、あなたは何をしたいと考えていますか。私の人生を振り返ると、若いときに働く経験をしたことで人生や労働について多くのことを学びました。

Q 私の周りには、今決めたことが後の人生にずっと影響するので、将来のことを決めるのが難しいと感じている人がたくさんいます。中高生の意識を変えるにはどうしたらよいでしょうか。

リンダさん:中高生の時点で人生をこういうふうに過ごしたいとはっきり決めているのは珍しいことです。私は16歳のとき、自分が何をしたいかなんて全然わかっていませんでした。その後チョコレート工場で働いたり、世界を旅したりして、私が関心を持っているのは人間や組織だと気がつきました。

私ができるアドバイスは、経験できるすべての経験を試してほしいということです。目の前のチャンスに気がついたら、逃さずつかんでほしい。さまざまな経験をすることで自分に向いていることがわかってくるでしょう。

人は考えているだけでは学べません。行動を通して学ぶのです。私は旅からたくさんのことを学びました。みなさんもできるだけ多くのチャンスを見つけ出してほしい。誰かがチャンスを差し出したら、「はい、やってみます」と答えるのがいいと思います。

ほかの特派員の質問とリンダさんの答え

リンダさんはほかの特派員の質問にも答えてくれました。

『16歳からのライフ・シフト』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)

Q 人的ネットワークを広げるのに、有益なことは何だと考えますか。

リンダさん:ボランティア活動はネットワークを広げる最も重要な方法だと思います。

Q いろいろ挑戦し、興味を持つにはどんな訓練が必要でしょうか。

リンダさん:小さなリスクを取ってみることだと思います。例えば私は20歳のとき、英国から中東ヨルダンまでバスと電車で旅行しました。危険だとは感じましたが、人や場所を学ぶ素晴らしい方法でした。

Q 100年時代にロボットやAI(人工知能)はどんなふうに役立つ?

リンダさん:高齢者がより生産的な生活を送るのに役立つでしょう。多くの高齢者がロボット工学やAIを採用したいと考えていると思います。若い人のサポートも必要です。

(朝日中高生新聞1月28日号掲載)

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