アメリカ人は、学生時代から「話し方」をスクールで体系的に学んでいます(写真:Syda Productions/PIXTA)アメリカ人は初対面でもすぐに打ち解けられるイメージがありますが、それは学生時代から「話し方」を体系的に学ぶからです。そして、アメリカの話し方では「あいづち」が非常に重視されます。その理由について、『アメリカの中高生が学んでいる話し方の授業』から一部抜粋・編集してお届けします。

①「推進あいづち」のパターン

私はこれまでアメリカで現地の学生が通うコミュニケーションのスクールを何度も視察し、そのエッセンスを自身のメソッドに取り入れています。

そんなアメリカのコミュニケーションのスクールで重視されているのが「あいづち」です。「あいづち」は会話が盛り上がるために、非常に重要なのです。

例えば、あいづちの一つに「推進あいづち」があります。「推進あいづち」は、相手に話を続けるように促すあいづちです。したがって、推進あいづちを使えば、相手はもっと話を続けよう、話を広げようと思うようになります。

よく使われるのは、「もっと聞かせてください」や「もう少し詳しく教えてください」「はい、続けてください」などですね。他にも応用として「それでどうなったんですか?」や「次に何が起きたんですか?」「結局どうなりましたか?」なども使えます。

他のあいづちも、基本的に相手の話を促す役割を持っていますが、推進あいづちはその役割が特に強くなります。しかも単に話を続けることを促すだけでなく、話を広げたり深掘りしたりすることを促すこともできますので、会話を盛り上げやすいあいづちです。

相手の様子を観察しながらあいづちを打つ

ただし、推進あいづちにも注意点があります。このあいづちもあまり連用してしまうと、「それで? それで?」と相手を急かす状態になってしまうのです。

したがって、他のあいづちの合間に使うようにしてください。また、これはあいづち全般に言えることですが、相手の話の節々で毎回あいづちを入れると少々鬱陶しくなります。場合によっては相手の話の腰を折ってしまうことにもなりかねません。

また、話し手によってはじっくりと考えながら多めに間を取って話す人もいますから、そのような相手にはあえてあいづちを打たずに黙って待つほうがよい場合もあります。

したがって、あいづちは、相手のペースや間の取り方なども観察しながら打つようにしましょう。場合によっては、非言語表現だけで黙って頷くだけのほうが好感を持ってくれる場合もあるでしょう。

特に、聞き手が複数人いるときは、皆がいちいち声に出してあいづちを打っているとうるさく感じられますので、このような場合は心の中に言葉を浮かべ、実際には頷くだけで十分です。

このように、相手の様子を把握する機微は対面のレッスンでならばお教えできるのですが、さすがに文章ではお伝えするのが難しいところです。場数を踏んで身に付けていくしかありません。

ただ、黙って頷くことが上手になっていることを確かめられる場があります。講演会などで講演者と目が合う席に座り、講演者の発言に対して頷いてみるのです。もし講演者にとって絶好のタイミングで頷けるようになると、講演者はあなたばかりを見て話すようになるでしょう。この段階になると、もはや講演者はあなたのために話している状態になりますので、とても充実感を得られますよ。

また、推進あいづちに限らずあいづちを打つタイミングの取り方のコツは、カラオケで他の人が歌っているときに合いの手を入れたり、手拍手やタンバリンをたたいたりするタイミングを参考にするとよいでしょう。

これはきちんと目的を持って意識して臨めば、タイミングや話のリズム感を摑めるので、とてもいいトレーニングになります。そして歌っている人は、あなたに好印象を持ちますから、一石二鳥ですね。あいづちが上手になってくると、相手に「この人に話すときはつい乗ってきて時間を忘れて喋りすぎてしまうな」と思われるようになります。ここまでくると、あいづちスキルを身に付けたと言えるでしょう。

②「共感あいづち」のパターン

他にもあいづちを紹介しましょう。「共感あいづち」は、相手の意見や感情に対して共感を持っていることを表すあいづちです。

たとえば「そうだったんですね」「それは本当に〇〇な状況ですね」などと使います。このようなあいづちを打つことで、相手の立場に立って、相手の考えや感情を理解していることを伝えます。

会話では事実の交換だけをしていても盛り上がりにくいのですが、共感あいづちを打つことによって理解が深まり、会話に熱がこもるようになります。したがって、このあいづちを使うためには相手の発言から言語の理解だけでなく、相手の感情や考えまでを汲み取る意欲が必要です。

これと間違えやすいのが同調あいづちです。共感と同調は若干異なります。共感は、相手の感情や考えを自分も理解できていることを示します。一方、同調は、相手に自ら積極的に合わせて同意を示します。

地域の集まりでIさんが「新しく引っ越してきたJさんは言い訳が多いから教えたくなくなるわ」と言ってきました。共感あいづちの場合は「そうなんですねー。(考えが一緒かどうかわからないからまず聞こう)どんなことからそう感じたんですか?」となり、同調あいづちの場合は「わかるー(私もJさんに教えたくないと思ってる)」となります。

同調あいづちは誤解を生みやすいので注意

同調あいづちは、相手は自分と考えや感情が一緒なんだと思うため、誠実性があれば関係性は強固なものになりますが、もしあなたが実際に思っておらず、調子を合わせているだけだと誤解やトラブルが生じやすいので注意しましょう。

いずれにしても、結果的には相手の感情や考えを共有したことをあいづちで示すことになります。通常、人は自分の感情や考えを表に出す場合は用心しています。聞き手にどう思われるかわからないからです。

しかし、聞き手が共感・同調を示せば、相手の警戒心は解けて、気持ちを解放し始めます。

そのことは話し手にとっては心地よい場合が多いのです。自分の感情や考えを共有できる人がいることは嬉しいのですね。

ですから、より一層、話に熱がこもるようになります。恍惚の状態とも言えます。その結果、話しきったときにはやりきったという充実感を覚えます。「あなたに話をしてよかった」と思うのです。

結局、多くはコミュニケーションを取るのは自分が幸福感を得るためなのです。話をするのは聞き手に共感・同調してほしいからです。ですから共感・同調あいづちを打つことができれば、話し手からは好感を持たれるようになります。

ただし、同調については過度にアピールしてしまうと、相手に「あ、自分に好かれるために無理して合わせようとしているな」と見透かされてしまう可能性があるので、過度な同調で媚びているように感じさせてしまわないように注意が必要です。

たとえば、「私は『グリーンブック』という映画が好きなんです」と言ったときに、相手が「はいはい、私もその映画は大好きです!」と答えたら、感性が合うと思い話を続けたくなるでしょう。そして「白人の主人公が黒人ピアニストに心を開いていくストーリーがいいですよね」と言うと「そうそう! ストーリーが良すぎ!」と答えてくれたので、共感されていると思い嬉しくなり、さらに「あと、白人の主人公が黒人ピアニストに心を開いていく様子を演じた俳優の演技力にも感動したんだよね」と言うと「わかるわかる! 超演技派だと思ったー!」と続きました。

そろそろ違和感を覚え始めますよね。これは話を盛り上げようと無理な同調をしてしまった例です。この後何を話しても「さすが! 私もそう思った!」「その通り! 名作ですよね!」など同調され続けると、不審に思ったりがっかりしたりしてしまうかもしれません。

「まさに!」「確かに!」「本当に!」「その通り!」「さすが!」など「同調あいづち」+「強調あいづち」になると話し手は自信を高め気持ちよくなることもあるので好かれるあいづちの一つではありますが、こちらも本心ではなく調子を合わせているだけであればリスクが大きいので気をつけましょう。

共存意識、共感スキル、共聴スキル

共感あいづちはマインドを汲み取る意欲が大切なので、多様性を受け入れる気持ちで使うようにしましょう。そのためには共存意識と共感スキル、共聴スキルを身に付ける必要があります。

共存意識とは、自分と相手の関係を尊重してお互いに調和して生きようとする意識です。多様な価値観を受け入れて対立や紛争を避けようとするスキルです。共感スキルとは、相手の感情や考えに寄り添い理解しようとするスキルです。信頼関係の構築に役立ちます。

そして共聴スキルとは、相手の話も一生懸命に聞くので自分の話も聞いてくださいね、という積極的傾聴のスキルです。共感あいづちは真剣に相手の意見や考え、感情に寄り添いながら話を聞くことで相手に安心感を与え、コミュニケーションの質を高めるために重要な役割を果たします。

③「要約あいづち」のパターン

「要約あいづち」とは、相手の話を要約して返すことで、相手の話の要点を理解したことを示すあいづちです。「つまり〇〇ということですね?」とか「すなわち〇〇という理解で正しいですか?」などとあいづちを打ちます。

反復あいづちにも似ていますが、相手の話を単純に反復するのではなく、自分なりの解釈をしてみせるところがより高度になります。たとえば「今度どんな本を出版するんですか?」という質問に、「最近グローバル化が進んでコミュニケーションスキルが注目されて、リスペクトトレーニングやスピーチ・プレゼンテーションを含めた話し方の技術を習いたい人が増えたので、あっ私、コミュニケーションコーチとして教えてるんですけど、生徒さんに『人に好かれたいんですがどうすればいいんですか?』とよく聞かれるんですね。

なのでそのテーマについて今まで15年以上教えているレッスンで培ったノウハウや自分が作ったメソッドでみんなに役立つことを書きました」と丁寧に伝えたとしましょう。

そのとき、相手が「つまり、人に好かれる話し方の本なんですね」とまとめてこたえるのが要約あいづちです。また、相手がうまく言語化できていなかったニュアンスをキーワードとして示すことができると、より一層、相手はあなたを信頼してくれます。

たとえば、相手が、「僕はめったに旅行をしないんですよ。趣味が合うというか動機が似ているというか、そんな人から誘われれば行くかもしれませんが」と語ったのを受けて、「なるほど、つまり“気の合う人”がいれば旅行をするかもしれないということですか?」と新たなキーワードを提供することで、「ああ、そうそう、“気の合う人”がいれば行くんですよ。そういうことです」と相手は自分のことを理解された上に自分の曖昧だった気持ちをズバリ言語化してくれたことに対して「この人は私の気持ちがわかっているな」と信頼感を持ってくれます。

しかし、要約あいづちは、相手の気持ちを的確に代弁できていないとかえって失望される可能性もあるため、「この解釈で正しいはずだ」と決めつけるのではなく質問形式にすると、もし間違えていても相手に嫌な思いをさせることは少ないでしょう。

また要約に自信がないときは「もしかして〇〇ということですか?」「失礼だったらすみません、〇〇というふうに聞こえますが合ってますか?」と言い方を工夫しましょう。

たとえば、前例のように「気の合う人がいれば旅行に行ってもいい」と要約すべきところで解釈を間違えて、「つまり、“誘われなければ”旅行に行かないということですね?」とズレた要約をしてしまうと、「そんな言い方されたら、私が誰にも誘われないのですねているみたいじゃないですか」と反感を持たれてしまうかもしれません。

難度が高い要約あいづちを使いこなすには

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このように、要約あいづちはあいづちの中でも最も難度が高いあいづちであると同時に、うまく使いこなせれば最も相手から信頼されるあいづちでもあります。ですから、要約あいづちを使う場合は、相当に相手の話に集中して、常に自分の言葉に置き換えながら理解していくように心がける必要があります。

要約あいづちを使いこなすために障害となるのは、自分の思い込みの強さです。相手がうまく言語化できずに試行錯誤しながら話している最中に、勝手に自分の思い込みで「つまり〇〇ですね!」と決めつけてしまうと、単なる早とちりになってしまいます。

ですから、要約あいづちを使うときには相手の話を虚心坦懐に聞くことを心がけなければなりません。

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