子どもたちに人気の科学漫画『つかめ!理科ダマン』の原作者シン・テフン氏(右)と漫画家ナ・スンフン氏(写真:Wisdom House提供)この記事の画像を見る(7枚)「海ってどれだけ広いの?」「なぜ月は形が変わるの?」「ベロってどうやって味を感じるの?」など、身近な疑問についてギャグを交えて解説し、子どもたちの心をわしづかみにしている科学漫画『つかめ!理科ダマン』(以下、『理科ダマン』)。実はこれ、韓国発の科学漫画で、日韓累計発行部数200万部を超える。韓国といえば「お受験大国」として知られるが、人気の科学漫画が生まれた背景に、厳しい学歴社会は関係しているのだろうか。全世界で約3000万部以上読まれていると言われる『科学漫画サバイバル』シリーズも韓国発。なぜ今韓国の科学漫画が日本の子どもたちの心をつかむのだろうか。最新刊『つかめ!理科ダマン 6 みんなが実験に夢中!編』が出たばかりの原作者シン・テフン氏と、漫画家ナ・スンフン氏に取材した。

教育熱が高い韓国

『理科ダマン』はもともと、『離さないで!精神線』という、日本の『ちびまる子ちゃん』のような中高生向けギャグ漫画だった。

「『離さないで!精神線』の読者層を調べると、意外にもコア読者が小学生だったんです。それなら小学生が気軽に楽しめる教育漫画を作ろう、と考えました」

そう話すのは、漫画を手がけるナ・スンフン氏だ。

「韓国は教育熱が非常に高い。本格的な受験勉強を始める前に、子どもに学ぶ楽しみを知ってもらい、自ら進んで勉強するようになってほしいと考える保護者は多い」(ナ氏)

韓国は、「名門大学に入り、大企業に就職することが人生の成功だ」と言われるほどの学歴社会。実際、韓国の大学進学率は71.9%(2022年)と、OECD加盟国でもトップを誇る。

「全教科に興味を持ってほしい」という保護者の強いニーズがあるなか、テーマを科学に絞ったのは、作画のナ氏と原作者のシン・テフン氏の双方とも、科学ドキュメンタリーが好きだったから。

ナ氏は「科学漫画なら面白く描ける」と考え、制作に取り掛かったという。

小学校のカリキュラムから発想

『理科ダマン』の主人公は、科学の天才大学生のシン。妹のジュリやいとこのグゥ、パパとママがトラブルを巻き起こし、科学の知識で解決するストーリーだ。

登場人物のドタバタ劇や、ちりばめられたギャグはもちろん、「なぜおならは臭いのか」、「うんちをしなかったらどうなるの?」といった、子どもたちが喜びそうな科学ネタも大きな魅力となっている。

※外部配信先では漫画を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

(出所:『つかめ!理科ダマン 1 「科学のキホン」が身につく編』)(出所:『つかめ!理科ダマン 1 「科学のキホン」が身につく編』)

大人も楽しめる科学ネタ

私も読んでみたが、「電線に止まった鳥が感電しない理由」や「急に走ると横腹が痛くなる理由」など、大人でも説明できないような科学知識も紹介されていた。

子どもだけでなく、大人も楽しめる科学ネタは、どうやって見つけているのだろうか。

「まず、小学校のカリキュラムから、物理や生物、科学などさまざまなテーマを数百個以上選び、そこから小学生が面白がってくれる質問、そしてストーリーを考えます」(ナ氏)

例えば「鼻」がテーマなら、まず「なぜ鼻くそができるの?」といった質問を作る。

そこから「もし大きな鼻くそを作り、弾丸のように発射したらどうなるのか?」、「照明のスイッチをめがけて鼻くそ弾を打てば、消灯できるかも」と、ストーリーにつなげていく。

ストーリーを考えるクリエーティブな時間が「一番楽しい」(ナ氏)そうだ。

「楽しい学び」が重要

筆者がかつて読んだ日本の学習漫画は、「勉強をわかりやすく解説してくれる、ちょっとお堅い漫画」のイメージだった。それに比べて、『理科ダマン』はギャグ要素が強い。韓国の学習漫画は、昔から面白いのだろうか。

原作者のシン氏に聞くと、「『理科ダマン』の制作にあたり、韓国と日本の学習漫画を読み込んだところ、あることに気付いた」という。

「ほとんどの学習漫画が『学習』だけに重点を置いていて、漫画本来の面白さが描けていなかったんです。

小学生向けの学習漫画とうたっておきながら、中身は大人の私も驚いてしまうくらい難しいものもありました」(シン氏)

学習漫画の役割は、学ぶことに興味を持たせ、次のステップへの道しるべになること。そのためには「楽しい学び」が重要だと考えたシン氏は、子どもも大人も楽しめる学習漫画を制作しようと決めた。

実際に『理科ダマン』を読んだ子どもたちに話を聞くと、「ギャグが面白い」という感想が圧倒的に多かったが、なかには「家でできる実験が紹介されていて、うれしかった」(小1男子)という声も聞かれた。

この家庭では実際に、『理科ダマン』で紹介されている「紙コップでお湯が沸かせるのか」という実験をしたそうだ。

保護者からは、「知識が増えて『俺、ちょっとすごいこと知ってるんだ!』と、うれしそうだ」、「小学生が好きなワードが取り入れられているので、自ら進んで読んでいる」などの声が聞かれた。

『理科ダマン』では、専門的な科学知識は章末のコラムで解説されている。ストーリー内では、概念を簡潔に解説する程度だ。

そのため「コラムまで読まないと、知識が身に付かないのでは」と懸念する保護者もいるかもしれない。

しかし、ギャグ要素を前面に出した構成だからこそ、学習漫画にとって最初の壁となる「子どもたちの心をつかむこと」を難なくクリアできている。

『理科ダマン』を愛読している小学生の母親は、「私も知らないトリビアを話していたので、どこで習ったのか尋ねると、『理科ダマンに載っていた』と言われて驚いた」と話していた。

『理科ダマン』の「面白さ」に魅了された子どもたちは、楽しんで繰り返し読むうちに、大人顔負けの知識を身に付けているようだ。

ナ氏は、「私たち大人だって、難しい説明を読むのは大変ですよね。だから、なるべく絵とストーリーだけで科学の概念を理解できるよう工夫しています。

科学の面白さを知り、興味を持ってもらうことが目的なので、何よりも面白く描こうと努力しています」と話した。

日本でウケたのは「予想外」

ナ氏は、韓国のギャグが日本の子どもたちにもウケたことについて、「予想外だった」と話す。

「人が笑うポイントって、その国の文化と関わりが深い。だから、日本の子どもたちに面白さが伝わりにくいかもしれないと思っていたんです。

でも、予想に反して『面白かった』という反応が多くて驚きました。みなさんに楽しく読んでいただけて、本当にうれしいです」

中学受験が過熱している日本でも、「学ぶことに興味を持ってほしい」と子どもに願う保護者は多い。

塾に通ったり、参考書を買い与えるのも一つの方法だが、子どもたちが科学や勉強に興味を持つにあたって、まずは『理科ダマン』の「面白さ」や「楽しさ」が取っ掛かりになってもいいのではないだろうか。

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