少子化が進む中、首都圏では中学受験が過熱しています。 首都圏1都3県で2024年、中学受験(私立・国立)をした小学6年生の割合が18.12%(推計)と、過去最高を記録したことが、中学受験向けの模擬試験や、教育情報の収集を行っている「首都圏模試センター」の集計で分かりました。実に、小学6年生の5.5人に1人が私立中や国立中を受験した計算になります。 受験率は10年連続で伸びています。中学受験人気の背景には何があるのでしょうか。首都圏模試センターの北一成さんに聞きました。(デジタル編集部・小寺香菜子)

◆コロナや大学入試改革の影響か

Q なぜ受験率が上がっているのか? A 大きく理由は2つある。大学入試改革への対応とコロナ禍の影響だ。
2025年から、大学入試が大きく変わる。正解がひとつに定まらない問いに対して、自分の知識や他の人の意見から気づきを得て、最適解を導き出す力が入試で求められてくる。私立の中高一貫校では、探求学習やグループワークなどで、新たな大学入試やこれからの社会に対応できる力を育ててくれると、期待が寄せられている。 さらに、新型コロナウイルスの感染拡大による私立校の対応が、中学受験に拍車を掛けた。 コロナ禍の当時、私立校は学校が休校した際にも、オンライン授業の対応が早く、生徒の学びを止めなかった。私立のオンライン授業の評判は、保護者の間で口コミで広がった。

2025年の大学入試 高校の新学習指導要領が2022年度から新課程に移行したことに伴い、25年の大学入学共通テストの内容が再編される。新学習指導要領では、知識だけでなく、思考力や判断力、表現力なども重視される。共通テストの試作問題によると、各教科でグラフや資料が多用され、学習知識を実用的に使いこなす力を重視する傾向にある。各大学が独自に実施する個別入試も改革が予想されている。

◆受験者数は微減…なぜ?

Q 2024年の受験者数は? A 推計5万2400人で、過去最高となった昨年より200人減った。昨年まで9年連続で増加していたのが微減し、過去2番目の多さだ。首都圏1都3県の小学校6年生の数が、昨年より約5000人少なく、受験者の多い東京都も減少した。受験者数も600人ほど減ると予想していたが、予想より減り幅は少なかった。あくまで微減で高止まり。児童数の減少以上に、中学受験熱がいまだに高いということだ。
Q 受験者数はこれまでどのように推移してきたのか? A 中学受験者数は、だいたい景気の上下動と連動する。中学受験者数は1991年に5万人を超えたが、バブル崩壊後に減少し1999年に底を打った。その後、「ゆとり教育」と呼ばれた学習指導要領が取り入れられ、学習量が減ることを保護者が心配して中学受験熱が高まり、2007年にもう一度5万人を超えた。その後、リーマンショックなどで再度減少したものの、2014年頃からは大学入試の変更(センター試験から共通テストへの変更など)が報道され、学力を育ててくれると期待されたことで人気が上昇し、そこから9年間右肩上がりだった。 近年はウクライナ紛争や物価高などもあり、もっと景気の影響を受けてもおかしくないが、先程の2つの理由(大学入試の変更やコロナ禍)から、景気の影響を上回る保護者の受験熱があったということだと思う。

勉強する子ども(写真は本文とは関係ありません)

Q 今後、受験者数は増えるのか? A さすがにこれだけ児童数が減っている。微減を続けて、少しずつ右肩下がりになると予想している。一方、受験率は先ほどの2つの要因(大学入試の変更やコロナ禍)から、上がる可能性がある。

◆入試の内容が多様に

Q 中学入試の内容は変わってきているのか? A 中学入試の多様化が進んでいる。適性検査型入試や、プレゼンテーション入試など、ペーパーテストだけではない評価基準の入試「新タイプ入試」の実施校数が増えている。首都圏に約300校の私立中があるとすると、その半分くらいの学校で導入している。お子さんの得意なことを生かせるような入試を上手に選ぶと、合格できるチャンスが広がる。

新タイプ入試 従来の4教科(国語、算数、理科、社会)2教科(国語、算数)のペーパーテストとは異なる新しい入試。適性検査型の入試の他、英語やプログラミングを使った入試やプレゼンテーションの形で自己をアピールする入試、ブロックを使って思考力を問う入試などがある。

Q 近年はどんな中学校が人気なのか? A 教育内容で言うと、グローバル教育やSTEAM教育に力を入れている学校が明らかに人気。これらの教育に力を入れている学校が中堅校に多く、期待をかける保護者が多くなっている。

STEAM教育 STEAMとは、科学(SCIENCE)、技術(TECHNOLOGY)、工学(ENGINEERING)、芸術(ART)、数学(MATHEMATICS)の頭文字を並べた造語。文系、理系を横断的に学んで創造性を育むとして注目を集めている。

Q 中学受験を考えている保護者にアドバイスを A 見た目の中学受験者数の増加や高止まりを怖がらないで、お子さんにあった受験のスタイルで、学校を選ぶと良いと思う。 保護者の方も、有名な学校や、大学進学実績が良い、偏差値が高いといったことではなく、うちから通える範囲でグローバル教育の良い学校はどこか、理系教育に力を入れているところはどこか。そういう視点で学校選びをするようになっている。 最難関校や、準難関校を目指して早くから進学塾通いする、そういう熱心な家庭が一部にあるとしたら、そこまでしなくても、良い学校に入れる環境が広がっている。あまり早くからかなりのボリュームを勉強すると、途中で燃え尽きてしまう子もいる。お子さんの性格や、家庭で大事にしている価値観で判断してほしい。

首都圏模試センターの北一成さん(本人提供)



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