オンラインの仮想空間「かくれてしまえばいいのです」が4月のオープンから3カ月間で700万アクセスを超えた。子どもや若者が、自分の分身「アバター」をつくり、しんどい気持ちをやり過ごす「隠れ家」への高いニーズは、若い世代の今を映す。

 自殺対策に取り組むNPO法人「ライフリンク」が、絵本作家のヨシタケシンスケさんと協力してつくった。無料で、個人の情報登録も不要。URL(https://kakurega.lifelink.or.jp/)にアクセスしてすぐ使える。

ヨシタケシンスケさんの優しいタッチ、色彩が印象的な「かくれてしまえばいいのです」のトップ画面=ライフリンク提供

 「このキャラ、かわいい」。関東地方の中学2年の女子生徒(13)も4月に利用した。

 アバターは、ヨシタケさんがデザイン。服装のアレンジをしたり、名前をつけたりすることもできる。クリックすると、自分のアバターが仮想空間(メタバース)をスイスイ移動する。

 メタバース内は九つのコーナーに分かれ、豊富なコンテンツがそろう。

 「オススメ市場」は、お笑い芸人で作家のピース又吉さんらが、しんどい時のオススメの過ごし方を紹介。「こっそりハッキリ発表ルーム」では、自分の気持ちを文字にして吐露できる。

 ロボットのキャラが待つ「ロボとおしゃべりコーナー」では、自分の気持ちを書き込むと、特別な学習をしたAIが寄り添った対応をしてくれる。「人間に悩みを話すのは苦手」(20代女性)という人でも、気持ちを明かすハードルが低い。

 「ゲーム自習室」も設けられており、悩み事から少し離れて時間を過ごすこともできる。

アクセスすると全体は大きくわけて二つに分かれている。どこで過ごすかも、どう過ごすかも自由だ=ライフリンク提供

 冒頭の女子生徒の場合、ヨシタケさんが描き下ろし、「かくれてしまえば」で読める17の小話が気に入った。しんどい気持ちに苦しむ子どもや若者へのメッセージ。「優しい言葉と優しい絵で癒やされた」

 女子生徒はメンタルの不調が続き、3月から学校を休んでいる。早く体調が良くならないかな。学校の勉強、将来の就職。この先、大丈夫かな。共働きの両親がいない昼間、自分の部屋で1人、不安が膨らみ、気持ちは沈む。「死にたい」という気持ちが大きくなったり、小さくなったりを繰り返す。

 「かくれてしまえばいいのです」が生まれた背景の一つは、普及したSNS相談だけでは若い世代のニーズに応じきれないという事情がある。

 ライフリンクのSNS相談「生きづらびっと」の2023年度のデータでみると、相談に対応できた割合は44.1%。相談者の57.5%は20代以下が占めた。

 若い世代の自殺に様々な対策が打ち出されるが、深刻なままだ。小中高生は22年に過去最多の514人、23年も513人。20代以下は20~23年の4年連続で3千人を超えた。

 ライフリンクの清水康之代表は「自殺のリスクを減らすための取り組みと両輪で進めるべきなのが、生きることを支える要素を社会にもっと増やしていくこと。メタバースはその一つとして新しく取り組んだ」と話す。

 若い世代向けのメタバースは、福岡県も23年に「おいでよ きもちかたりあう広場」を開設。同県は、孤独感や生きづらさを抱える若い世代向けで「全国初の取り組み」としている。県のSNS相談を利用した人を招待する形で運営しておりURLは一般公開していない。(久永隆一)

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