(出所:ガストンのソーシャルスキルえほん『かっても まけても いいんだよ』)4月、入園・入学・進級など、子どもたちにとっては新しい毎日が始まりました。新たな集団の中で、「わが子が友達とうまくやっていけるのか」、心配する保護者も多いかもしれません。中には「勝ち負けにこだわる」ばかりにトラブルになってしまう子どもがいます。そのようなとき、親はどのように関わり、子どもの気持ちを受けとめてあげればいいのでしょうか。オーレリー・シアン・ショウ・シーヌ著『かっても まけても いいんだよ (ガストンのソーシャルスキルえほん)』は「ソーシャルスキルが学べる」とSNSで話題になった絵本。ゲームがうまくできないと「もうイヤだ!」とすねてしまうユニコーンのガストンが、勝ち負けを超えてゲームを楽しめるようになる成長の物語です。本記事では同書の内容に関連し、幼稚園教諭として多くの子どもを見てきた、お茶の水女子大学特任教授・宮里暁美さんによる寄稿をご紹介します。この記事の画像を見る(4枚)

負けると怒り出したり、泣き出したり、負けるならやりたくない!と駄々をこねたり……、人は誰しもそんな気持ちを持っているものです。

ソーシャルスキルは、社会・集団の中で周囲の人との関係を良好に築いていくための力。

ガストンの物語を通して、「勝ち負けにこだわり過ぎず楽しむことが大事」というメッセージをどう伝えていくか。4歳ごろの子どもの特徴にあわせて、子どもへの対応や語りかけについて考えてみましょう。

勝つことも負けることも重要な体験

周囲を気にせず、一人でがむしゃらに走って「いちば〜ん!」などとはしゃいでいた子も、少しずつ一緒にいたい友達ができて、その子と同じ動きを楽しみながら遊んだり、みんなでいることを楽しいと思うようになったりします。

集団で何かをする楽しさもわかってきて、進んで参加する姿もありますが、時には、思うようにならない、うまくできないといった葛藤も生まれ、心は揺れ動きます。

「ゲームはやりたいけれど、負けると悔しい」と思うのも、そんな気持ちのひとつ。だれもが葛藤を乗り越えて成長していくのです。

4・5歳の頃は、たくさんの体験を積み重ね、社会性が育っていく大切な時期です。人とかかわる中で、自分のよさを知り友達のよさを知る。人として生きていく基盤が育つ時期とも言えます。

(出所:ガストンのソーシャルスキルえほん『かっても まけても いいんだよ』)

負けるより勝つほうが好き、それはとても素直な気持ちです。負けて悔しい、負けたくないと思うのは当たり前のこと。勝ちたいと思う心は、向上心にもつながる大切なものです。

ただ、勝ちにこだわり過ぎてしまい、ゲームを楽しめないのは、とても残念です。勝ったり負けたり、その両方を味わうことで、心の奥行きが深くなると思います。そのためにゲームがある、ともいえます。

(出所:ガストンのソーシャルスキルえほん『かっても まけても いいんだよ』)

ゲーム遊びでどうしても負けを受け入れられないころは、まだ経験が浅いときです。勝ったり、負けたりする経験を積んでいくことで、負けてもまたやればいい、次は勝つかもしれないと思えるようになっていきます。

保護者が手加減をして、いつも負けてあげていると、子どもは負ける経験ができません。そのような子どもは、子ども同士の集団で負けたとき、大きなショックを受けます。

負けることは悪いことではありません。勝つ人がいれば、必ず負ける人もいるのですから。

小さいころから、勝つ経験も、負ける経験もして、その気持ちを味わうことが大切です。

勝ち負けにこだわるのはママやパパ?

子どもにとって勝ち負けが登場するのはゲームだけではなく、スポーツや勉強の場面でもありますが、子どもは、大人の関心がどこにあるのかを敏感に感じとります。

周囲の大人が勝ち負けの結果ばかりを気にしていると、子どもも勝ち負けにこだわるようになりがちです。一生懸命にやっている姿や楽しんでいる姿を認めたり、喜んだりすると、プロセスを楽しめる子に育っていくのは確かです。

普段から「今日は勝ったね」「だれより速かったね」ではなく、「楽しかった?」「そんなことをやっていたんだね」「よくがんばったね」「楽しんでいる話が聞けて、ママはとてもうれしい」などと声をかけてあげるといいですね。

怒ったり、悔しがったり、すねてしまったり、子どもがマイナスの気分になったとき、早くそこから抜けさせようとして、言葉で説得しがちです。

「負けたって気にすることないよ」「そんなことで怒っていたら、おかしいよ」「がんばってまたやろう」と言われても、子どもの気持ちはおさまりません。

負けて気分が悪いところに注意までされては、どうしていいか、ますますわからなくなってしまう子もいるでしょう。

(出所:ガストンのソーシャルスキルえほん『かっても まけても いいんだよ』)

大切なのは、子どもの揺れる気持ちに、大人が寄り添ってあげること。

「悔しかったんだね」「がんばったんだね」「ママもそんな気持ちになったことあるよ」などと語りかけ、うまくできなくて、もっとうまくやろうとがんばるけれど、でもやっぱりできない、そんな揺れる気持ちを、そのまま受け取り、認めてあげましょう。

「なんでもがんばってやらなきゃダメなんだね」「がんばってやればうまくいくね」など、大人の意見を押しつけることはおすすめしません。

がんばったからといって、必ずしも上手にできるようになったり、ゲームに勝てるようになるわけではありませんから。

子どもの気持ちに寄り添うために

ソーシャルスキルは体験を重ねて身についていくもの。

絵本の言葉をそのまま読み聞かせても、言い聞かせても、それだけではなかなか身につきません。

勝ったり負けたりの体験を繰り返す子どもを見守り、負けて悔しがる子どもの気持ちに寄り添うきっかけとして、絵本を取り入れていくのがいい方法でしょう。

子どもは、昨日の自分と今日の自分をくらべながら成長します。親は、勝ち負けを超えて今の自分は大丈夫なんだと思える子どもの気持ちを応援し、根気よく見守れるとよいですね。

この記事の画像を見る(4枚)『かっても まけても いいんだよ (ガストンのソーシャルスキルえほん)』(主婦の友社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

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