ECを活用すれば、地方の企業も世界に対して自社の持つ価値を発信できるようになります(写真:metamorworks/PIXTA)日本の地方企業からは、世界がときめく商品・サービスが数多く生まれています。日本の各地域にはそれぞれのポテンシャルがあり、「そこでしか生み出すことのできない価値」にあふれています。一方で、戦後の政策ともあいまって、経済の機能は首都圏に集中し、人口も同じく首都圏に集っています。そして、多くの地方企業が、人材やIT活用のノウハウの不足、資金調達の難しさ、人口減少や過疎化による商圏の縮小、高齢化による後継者問題など、数多くの課題を抱えています。しかし、その解決方法はすでに示されています。『LOCAL GROWTH 独自性を活かした成長拡大戦略』(クロスメディア・パブリッシング)では、4人の著者が専門的な知見から、地方企業の成長に必要なノウハウを語っています。日本にあるすべての企業が、自社の持つ価値を発信できるようになる。そして、日本中、世界中に暮らす人たちに、自慢の商品を届けることができるようになる。洗練されたサービスを通して心ときめく体験を提供し、そこに日本中、世界中から人が訪れるようになる。「地方発全国、日本発世界」の企業が、この国に1つでも多く生まれていくためには、何が必要なのでしょうか。

ECにはどんな商品が向いているか

ECの黎明期は、商品の独自性が高く尖っているものであったり、価格帯が高額なものであったり、消費者の悩みに直接的にアプローチできたりするものが向いているなど、一定の傾向が見られました。

しかし、現在のECにおいては、商品の向き不向きがそこまで顕著に現れることがなくなってきているのではないかと思います。

強いていえば、「ここで買う理由」を作りやすい商品・サービスが向いているでしょうか。希少性の高いものや、特定の人の課題解決につながるものです。

たとえば「極小ロットでしか生産されない幻の日本酒」は、味と希少性で購買欲に訴えることができます。あるいは「劇的に薄毛を改善できる自社開発の育毛剤」は、特定の人の課題を解決することができます。また、定期的な購入が見込めるため、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)も伸びやすいというメリットもあります。

いずれも「ここで買う理由」を作りやすい商品・サービスです。このように商品やサービスとニーズをマッチさせることができれば、それだけで売れていくでしょう。

ほかにも、写真や動画といったインターネットの特徴を活かしやすい商品やサービスもEC向きです。

たとえば、いわゆる「シズル感」の演出です。

瓶に入ったはちみつは、スーパーの陳列棚やAmazonや楽天市場などに並んでいる限り、どれだけ容器のデザインを変えても「食べたい!」という欲求に訴えることは難しいでしょう。

それがメーカーの自社ECサイトで、木匙(さじ)ですくい上げた黄金色のはちみつがとろりと流れる動画が目に入れば、「美味しそう」と感じてもらえます。インターネットの特性を最大限に活かすノウハウを知ることで、お客様の欲求にダイレクトに訴求できます。

ECは、従来のように「多くの人に向けて、広く商売する」のではなく、自分たちの持つ「世界観」を伝え、1人のお客様との間に強いつながりを作ることが大切です。「たった1人の心をつかんで離さない商売をする」ことが、結果的にビジネスを加速させることになります。

ECの収益構造

企業がECを導入するとき、迷う要因の1つは「本当に儲かるのか?」ということです。ECモールでは手数料がかかり、自社サイトでも初期の導入費用や運営していくうえでのコスト、商品の送料などもかかります。

ここで重要なのが、顧客1人あたりの経済性を示す「ユニットエコノミクス」が成立しているかという観点です。

ユニットエコノミクスは、売上LTV、販売原価の合計、CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)で構成されており、売上LTVから販売原価の合計とCPAを引いた数字が1人の顧客から得られる粗利になります。

まず、このユニットエコノミクスが成立している状態をゴールとして目指します。これを維持できるようになれば、あとは顧客数を増やしていき、顧客あたりの売上が積み重なっていくことで事業全体の売上を作っていくことができます。そこから人件費などの販売原価以外のコストが引かれますが、これがうまく回るようになれば利益が出るという構造です。

また、PL(損益計算書)におけるマーケティングコストの構成比の高さについても認識すべきです。商品原価や配送費など、ECで売上を作り出すのに必須なコストは重く感じますが、圧倒的に重いのはマーケティングコストであり、ここが成果として適切に返ってくる状態を作れるかどうかが競争力の重要なポイントです。

(画像:『LOCAL GROWTH 独自性を活かした成長拡大戦略』より)

ECで買ったお客様を逃がさないために

自社ECにとっていちばんの課題は、集客です。まずはお客様にサイトを知ってもらわないことには、売り上げにつながりません。お客様が自分で検索することでサイトを訪れることもありますが、それを待っていても安定した売り上げにはなりません。

集客のためにはさまざまな施策がありますが、取り組みやすいのはSNS広告です。FacebookやX、Instagram、TikTokの広告を活用して認知を図り、コスト管理を最適化していくことが必要になります。

ただ、近年では、広告を使ってお客様に知っていただくことと同時に、一度サイトに来ていただいた方ににファンになってもらうことが大切になっています。

これだけ消費があふれている時代に、自分たちの商品にたどり着いてもらうチャンスは限られています。CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)やLTVというように、1回買ってくださったお客様を逃がさず、しっかりと自分たちの良いところを感じていただき、長く使っていただくことが必要です。

直接的に商品を売ることを優先してしまうと、広告やサイト上の訴求がどうしても押しの強いものになってしまったり、脚色してしまったりすることもあります。そのメッセージに違和感があれば、お客様が離脱する可能性が高くなります。

お客様を育てていくための施策には時間がかかりますが、継続的な成長のためには欠かせません。特にこれからの時代はその傾向が強くなります。

世の中には、同じようなものがあふれています。たとえばボディーソープを買おうと思えば、どれを選んでいいのかわからないくらい、たくさんの商品があります。よりきれいになるもの、いい香りのするものを選ぼうと思いますが、機能面ではそんなに大きな差はありません。

ECでモノを売るためにすべきこと

そうした中で世の中で求められるのは、機能的価値から情緒的価値に移行しています。

その商品を消費することで、どんな気持ちになれるのか。それがほかの商品では得られない価値になります。消費者はみな、コンビニやドラッグストアに行っても買えない、あるいは買わないものを探しているのです。

では、何が情緒的価値を生み出すのかといえば、その企業や商品だけが持つ世界観です。ボディーソープであれば、忙しい日常の中で、少しほっとできる時間を過ごすためのものだと打ち出す。それをビジュアルや言葉で表現することで、消費者の共感を引き出します。

『LOCAL GROWTH 独自性を活かした成長拡大戦略』(クロスメディア・パブリッシング)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

最低限、「なぜそれをつくっているのか?」「どんな想いでつくっているのか?」といった部分は伝えるべきです。

加えて、「どんな人がやっているか?」という部分も大切です。

一時期から農家の方の顔写真が載ったパッケージの野菜などが売られるようになりました。生産者の顔が見えることで安心と共感が生まれる効果があり、これはECでも同様です。

企業が消費者にダイレクトに商品を売る意味は、ブランド独自の世界観や価値を伝えることにあると思います。ECモールでは、自社の思うように商品の魅力や世界観を表現することはできません。小売店であっても、商品の陳列場所や見せ方をメーカーが強制的に指定することはできません。

それが自社ECであれば、思うようにデザインできる。これからは、自社ECを通してブランドの「世界観」を消費者に伝えることが、ファン獲得へとつながっていくでしょう。

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