10年後の社会では、どんな仕事がなくなり、どんな仕事が生き残るのでしょうか(写真:World Image/PIXTA)「最近、スーパーのレジが無人化しているな」「問い合わせをすると自動応答で返ってくる」……。こんな機会が増えているのではないでしょうか。仕事は確実に省人化・AI化への道を突き進んでいます。研究者にもよりますが、近い将来には8割の仕事がAIにかわると予測されています。人工知能研究トップランナーであり、経営者でもある川村秀憲氏の著書『10年後のハローワーク』より、一部引用・再編集して「これからの時代に取るべき選択は何か」を解説します。

「AIが人類を超える日」は早まっている

唐突ですが、スーパーでお会計をする自分を思い浮かべてください。

以前は、お会計は店員さんに商品を渡し、袋詰めをしてもらいながら支払いを済ませるのが当たり前の光景でした。

ですがコロナ禍を経て、お会計はセルフレジで行う光景が、当たり前になってきているのではないでしょうか。

実際に、「2023年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によると、セルフレジ設置企業の割合は全体ですでに78.2%にのぼり、いまなお増加傾向が続いています。

現在一番普及しているのは、店員さんが商品のスキャンなどを行い、代金の精算をお客さんが行うセミセルフレジタイプですが、フルセルフレジの導入コストと比べると割高のため、これは将来のフルセルフレジ化に向けた過程と捉えたほうがよさそうです。

私たちの生活に直結するところで、すでに省人化・AI化が浸透しはじめていることを考えれば、仕事においてはよりその波が大きくなることは間違いないでしょう。

AI研究の世界的権威であるレイ・カールワイツ博士は、2045年にAIが人類の知能と並ぶ、または超えるだろうと予想しました。これがAIを語るときによく出てくる「シンギュラリティ」という言葉の意味です。

私は、この見方よりも早く到達するような気がしています。

Chat GPTの登場など、近年の動きはそれを感じるに十分でした。

完全に人間を超えていくかどうか、そうするべきかどうかは別として、AIの進歩のスピードが速まっていることは、おそらく間違いありません。

AIの進歩と発展が、自分の職業・就職の機会を奪い、収入を減らし、生活をより「貧しく」してしまうのではないかと心配している人たちも、かなりの数いるように感じます。

これまでは、AIに何ができるのか、どこまで開発が進んでいるかなどのテーマが多かったのに対して、最近では、実際に企業でどのような取り組みが行われているか、さらにはそれによって組織や人事、採用のあり方がどう変わってきているかへと内容がシフトしてきています。

確かにこうした状況のなかでは、AIがどのようなものなのか、そして今後の社会にどんなインパクトをもたらすかについて定まった考えがない方々が、強い不安感を持つことは無理もありません。

なかでも、より深刻に捉えているのは、30代、40代を中心とした、いわゆる社会の中堅として活躍されている方たちだと思います。

今後10年、あるいはもっと短い期間で社会が大きく変わっていくと予測し、行く末をより現実的に考えるならば、これからの自身の「食い扶持」をどうしていけばいいのかを気にしないわけにはいかないでしょう。

10年後も生き残る仕事、なくなる仕事の境界線

では、実際に10年後の社会では、どんな仕事がなくなり、どんな仕事が生き残るのか。そして、どんな仕事が新しく生まれてくるのでしょうか。

ひと言で結論を述べるなら、

仕事は「意思決定」と「作業」に分解され、このうち「作業」に関しては、相当部分がAIに取って代わられる

とまとめることができます。

違う言葉で言い換えるならば、

「自分で何をするか決める仕事」は残り、「人から言われてやる仕事」はAIに取って代わられる

ともいえると思います。

いまの自身の仕事、身の回りの人たちの職業と照らし合わせてみてください。同じような業界、領域でも、「自分で決めている人」もいれば「人から言われて動く人」もいます。

意外なことに、それは現時点での収入や社会的地位とは相関していないこともあります。

なかでももっとも影響を受けると考えられるのは、いままでは「高度な知的作業」とされてきた、なんらかのアウトプットをするポジションです。

例を挙げるなら、

〇質問に答える
〇指示に従ってわかりやすい資料を作る
〇内容を要約する今後においてもAIにできないことは何か?
〇前例を調べる

このような作業は、飛躍的に効率化、あるいは「省人化」されていくはずです。

私は大学生を教える立場ですが、学生のなかには将来プログラムを書きたいと考えている人もいます。私自身、小学生のころからプログラムを書き続けてきた人間ですので、そのおもしろさはよくわかっているつもりです。

ですが、はたしてAIの時代になりつつあるいま、プログラマーやシステムエンジニアのような職業が今後も安定して継続し続けられるかについては、大いに疑問です。

プログラムを書くという作業はAIにぴったりで、現状でも、有料版のChatGPT-4で相当部分は代替え可能です。従って、ひと月たったの20ドル(約3000円)で使える人工知能を大きく上回る仕事が、毎月何千ドルもの給料をもらってできることを証明しなければならなくなります。

同じことがオフィスでデスクワークを中心とする仕事をする人、いわゆるホワイトカラーの現場でも続出すると思われます。そのなかには、社会的地位が高いと言われてきた医師や弁護士なども含まれます。

AIはなにができて、どんなことができないのか

そんな近い将来において、人は何をすればいいのでしょうか?

この問いは、「」という話と同じです。

答えを述べれば、AIにはクリエイティブなことができません。より正確に言えば、意思をもって何をクリエイティブすべきかを決めることができません。

膨大なデータを学習したAIは、ある指標のあとにどんな指標が続くのかを解くことに関しては、人間の能力を凌駕します。

文章で言えば、ある言葉のあとに続くべき言葉をピックアップし、さらに前後の関係や結論と合わせて、何をどうすればいいのか、膨大なパラメータを調整しながら最適化していくことが可能です。

しかし、AIに原稿用紙を渡し、「あなたの言いたいことを書いて」と依頼しても、何も返せないでしょう。AIを搭載した絵描きロボットに白いキャンバスを渡し、「君の好きなものを何か描いて」と指示しても、やはり何も描けません。

いっぽうで、「筋肉質の男性が嵐のなかで敵をやっつけている場面を描いて」などと具体的に指示していけば、かなり要求に近いものを出してくるでしょう。

いずれにしても、AI自体に書きたい、描きたいという欲求はなく、過去に学習したもののなかから「それっぽいもの」を持ってきてつなげることに長けているだけなのです。

もっとも、AIにも創造に近いことができるようになる可能性も十分にあります。

なぜなら、人間が作る創造物においても、たとえばある作家が、あるストーリーと別のストーリーを組み合わせ、さらに別のストーリーの要素を加えて「いいとこ取り」した作品に対して、新しい作風として称賛が与えられることがあるからです。

こうしたものまで創造と呼ぶのであれば、おそらくそれはAIにも可能なのだと思います。

「属人化こそ勝ち組」の時代が到来

では、どんな人であれば職を失いにくいといえるのでしょうか。

キーワードは「属人化」です。

『10年後のハローワーク これからなくなる仕事、伸びる仕事、なくなっても残る人』(アスコム)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

「その人」だから価値があると感じているものは、AIには入り込めない領域なのです。

属人化している仕事は、思った以上にたくさんあります。アスリートやYouTuberなどの配信者はわかりやすい例ですが、そのほかでも理由はわからないけれどとてもおいしいチャーハンを作る町中華や、そこで腕を振るう親父さんの代わりは、AIにはできないでしょう。

これまで善とされてきた「標準化」「マニュアル化」はAIが担い、悪とされてきた「属人化」こそが私たちが生き残っていく術となります。

誰もがしている「勉強」で秀でることの価値が、相対的に減っていきます。それは知能が自動化、機械化されれば、努力の必要すらなく、しかも人がするより高いレベルで実現できてしまうからです。

問題は、大企業や組織力の高い会社に入ったことで、仕組化の歯車のひとつとなって、属人化を排除する組織の文化や風土に慣れてしまった人が、

「自分は本当は何をしたいのか」

「なぜそれをしたいのか」

こういったことを明確にして、最後は自分の意思で決められるかどうかです。

AI時代の到来が本当に問うているのは、「あなたならどうするのか」ということだと思います。

それを考えるのは、いまがいい機会というよりも、AIの進歩スピードを考えると、ラストチャンスなのです。

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