2024年からオンライン出願となった神奈川県内の公立高校入試で、受験生が事前登録に米グーグルの「Gmail(Gメール)」を使うと手続きがストップする障害が発生している。本番の受験が目前に迫り、県教育委員会は復旧を急ぐとともに、17日、一部の生徒には個別に連絡する対応を始めた。教育現場でデジタル技術の活用が進む中、何が原因なのか。(森本智之)

◆1月9日に障害発覚、案内メールが届かない

 「想定外はあってはならないが、こういう状況になるとは想定していなかった」。県教委の担当者は取材に話した。  県教委によると、神奈川県立、横浜、川崎、横須賀各市立の高校を志望する受験生は実際の出願に先立ち、インターネット上の出願システムに名前や住所などを登録する必要がある。登録するには、まずシステム側に空メールを送り、自動返信される案内メールから手続きを進める。ところが受験生がGメールから送信した場合、案内メールが届かなくなっている。

インターネットを使ったオンライン出願を求める神奈川県教委の資料

 事前登録の受け付けは1月4日に始まったが、冬休みが明けた9日午後になって保護者らから「メールが届かない」と問い合わせが続出。障害が発覚した。

◆申請集中で迷惑メールと判断された?

 県教委が想定する全出願者は約5万人。17日午前の段階で4万6000人が出願済みで、うちGメールを利用して登録が滞っているのは331人という。  予定では、志望校への出願は24日に始まり1週間が期限だ。担当者は「申請が集中した結果、Gメール側が迷惑メールと判断してはじいてしまった可能性がある。週内の復旧を目指している」という。  オンライン出願自体は大学受験では近年、一般的になってきている。高校入試でも、受験生の利便性向上や、入試を実施する都道府県、教員らの負担軽減などを目的に、各地で取り組みが始まっている。文部科学省も入試におけるデジタル技術の活用を各地の教育委員会などに求めており、文科省の調査によると、昨年段階で既に東京都や福井県などが導入している。

◆他県入試で実績あるIT企業だったが…すでに修正

 神奈川県教委も、福井県など他地域でオンライン出願を手がけた実績のあるIT企業に事業を発注。「これまでトラブルの報告はなかった」という。  立命館大の上原哲太郎教授(情報セキュリティー)は「障害の根本的な原因はシステム側の設定ミスの可能性がある」という。  上原氏が問題の出願システムの状況をネット上で確認したところ、システムがメールを正しく受信できない状態になっていた。Gメールの仕組み上、メールが届かないとその相手先を迷惑メール業者と判断し、それ以降の県教委側からのメールの受け取りを拒んだ可能性が高い、という。  16日には設定は修正されたようだという。

◆受験生はピリピリしている時期に…

 Gメールはメールアカウントを無料で作れるフリーメールで、広く普及しているが、「フリーメールの中では、断トツに迷惑メールへの対応が厳しい。グーグルは2月からさらに厳しくするとしており、同じような問題は今後も出てくる可能性がある」(同氏)。  教育評論家の尾木直樹氏は「ただでさえ受験生はピリピリしている時期で、生徒が不安を抱かないようにケアするのが一番のポイントだ。不利益を被る生徒が一人も出ないようにしてほしい」と指摘した上でこう提言する。  「オンライン化の流れは必然的。神奈川県は初めての取り組みだからいろいろな問題が出てくるのは当然で、なぜ障害が起きたのか明らかにして、しっかり説明してほしい。対応策が見えてくるはずで、文書による出願という選択肢を残しておくのも一案だろう。今後に続く他自治体の教訓になるはずだ」 

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