部下と良好な関係を築いている人が実践している会話術とは?(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)仕事でもプライベートでも、スムーズに物事を運ぶためには人間関係を良好にしておくことが何より大切だと言っても過言ではありません。本稿では、ソフトバンクでマーケティングに携わり、新著『仕事は1枚の表にまとめなさい。』を上梓した池田昌人氏が、相手を知るために大切な3つのコツ(会話術)について解説します。

仕事関係の相手と関係性を深めるコツ

相手を知ることは容易ではありません。いくら業務をスムーズに進めるためとはいえ、部下やメンバーにプライベートなことを尋ねれば、ハラスメントにもなってしまいかねない今の時代、どのように相手を知ればいいのでしょうか。

常とう手段としては、相手が公表していることや日常の発言、誰といるか、SNS等の発言を追う、ということになりますが、日々、そうしたことに時間を費やすのは難しく、また発信していない人もいます。

そこでここでは、忙しいビジネスパーソンでもすぐにできる、相手を知るために大切な3つのコツをお伝えします。

①頭を占めていることTOP3を、オープンクエスチョンで尋ねる

相手を知るには、相手自身に教えてもらうのが一番の近道です。そして、知りたいとなれば、質問するしかありません。しかし、だからと言って、「彼女はいるの?」などと聞いてしまっては一発アウトです。

相手を不快にさせずに、相手から自分のことを教えてもらうために、私がよく一対一のときに使うのが、「頭を占めているTOP3は?」という質問です。もちろん、答えてもらう内容は、仕事のことでもいいし、そうじゃないことでもかまいません。混ざってももちろんOKです。

例えば、「1位は引っ越しです。今週末引っ越すんですけど、まだ全然荷造りができていなくて。2位は○○社の案件がちょっと心配ですね。3位は昨日の研修です。すごく勉強になったので……」などと返ってきたとしましょう。

そうすると、「へえ、引っ越すんだね。どこら辺に引っ越すの?」のように話を膨らませることができます。相手からしゃべってくれることを深追いしていけばいいので、コミュニケーションが取りやすくなります。

会話を盛り上げるのに有効な「オープンクエスチョン」

追加で質問をする際にも、相手が「はい」「いいえ」で返事ができる「クローズドクエスチョン」ではなく、自由に答えてもらう「オープンクエスチョン」で尋ねると、より深い情報を引き出すことができます。

先ほどの引っ越しの話で、「どこら辺に引っ越すの?」というのは、オープンクエスチョンの一例です。すると相手は、「横浜のほうです」「北区に実家があって、そこにいったん戻るんです」などと返しやすく、さらに話が盛り上がるでしょう。

私は特に部下に対しては、「この1カ月で頭の中を占めているTOP3は何?」と定期的に聞くようにしています。こうした質問を通して、これまで私自身も、部下から、「実は母が急に入院して……それで頭がいっぱいなんです」とか、「この間プロポーズされたんです。来年には入籍しようと話しています」といった、個人的な事情を教えてもらったことがあります。

こうした事情は、仕事とは直接つながっていないとはいえ、例えばその時期は責任の重い仕事はやめようとか、残業が少なくなるようにしようとか、そうした判断につながっていきます。相手が何を大切に思っているかも見えてくる、とても重要な情報です。

さらに多くのことを知りたければ、「いいこと」と「悪いこと」それぞれのTOP3を聞くといいですね。定期的に繰り返すと、頭を占めているものの順番が変わったり、なくなったりすることで経過観察もできます。

これはビジネスだけでなく、プライベートでも有効です。私は子どもと一緒に入浴しているときなどによくやっています。小学生の三男は、たいていゲームや遊びのことばかりですが、定期的に聞いていると、「あれ?この前はそんなこと言ってなかったね」と変化に気がつくことができるのです。

まずは自分から情報を発信することを意識する

②「自分のこと」をきちんと話す

相手のことを知るために意外に重要なのが、「自分のこと」を話すことです。これは、「自己開示」といわれています。私はセミナーでは1時間をかけて、自己紹介をします。それは、ただ私が自分のことを話したいから……ではありません。

人には、相手が自分のことを話してくれたら、自分も相手に自分のことを話しやすくなる性質があるからです。事実、私が川崎市出身であることを話すと、「私も川崎出身なんです」「先週末、川崎駅のショッピングセンターに行って……」みたいな話が返ってきます。

こうしたことをきっかけに、再びオープンクエスチョンを駆使することで、相手のことを知ることができます。人は、知らない人には自分の話はしたくありません。まずは、自分から自分のことを話すこと。そうすることで、会話しやすくなっていくはずです。

「うなずく」ことで安心感を与えられる

③相手の話は「うなずいて聞く」

傾聴という言葉を聞いたことがありますか。簡単にいえば、「相手の話に耳を傾ける」ということ。相手の話を聞くときに、相手の立場になって気持ちに共感しながら聞くことです。

相手を知るためのポイントの3つめは、この「傾聴」です。傾聴は、アメリカの心理学者であるカール・ロジャーズが提唱した「積極的傾聴(Active Listening)」の技法のひとつで、ロジャーズの3原則と呼ばれています。

出所:『仕事は1枚の表にまとめなさい。』

 これをもっと簡単に言い換えると、下記のようになります。

出所:『仕事は1枚の表にまとめなさい。』

まずは、意識的にうなずくことから始めてください。相手の話に「うん、うん」「はい、ええ」と、うなずくだけです。そうすると、その後に否定されようが肯定されようが、とにかく「聞いてもらえている」という安心感を覚えます。

この感覚が、相談のしやすさや声のかけやすさにつながり、コミュニケーションロスが起こりにくくなるのです。「ちゃんと聞いているよ」ということを態度で示すことは相手の心理に大きな影響を及ぼします。

さらにじっくり話を聞きたい場合に有効なのが、「繰り返す」です。相手が、「クライアントのレスポンスが遅いんです」と言えば、「そうか、レスポンスが遅いんだ」と繰り返します。この手法は、「オウム返し」などの形でよく知られているので、実践されている方も多いでしょう。

しっかりと耳を傾けてから、「つまり代理店との連携に問題があるんだね」「先方の管理システムが構築されていない可能性があるね」などと、相手の言葉そのままではないキーワードを示すのが「要約する」段階です。要約が的確になされていると、相手は、「自分の言いたいことがきちんと伝わっている」という安心感を、よりいっそう強く覚えます。

意外とできていない人が多い「人の話を聞く」こと

一方で、中途半端なタイミングで要約してしまったり、相手が特に伝えたいこととずれていたりすると、「早く話を終わらせたいのかな?」「ちゃんと聞いてくれているのかな?」と不安を与えてしまいます。

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そして最後に「君はどうしたい?」「相手にどうしてほしい?」と質問を投げかけてみてください。悩みを打ち明けているときに、自分の中で問題が整理できて解決に導かれることもあります。

そこで相手に自分の話を整理されると、より解決の糸口が見つかりやすくなるでしょう。「人の話を聞く」というのは、当たり前だし、言われなくてもやっていると思うかもしれません。

しかし、自身を客観的に振り返ってみると、案外みなさん、きちんと聞けてはいないものです。

聞き流していたり、仏頂面で聞いていたり……こうした相手とは、話す気になれませんよね。丁寧に聞くだけで、相手は心を開きやすくなり、相手について知るチャンスにもつながっていくのです。

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