同一エリアに同じコンビニが多数展開されているのには理由があります(写真:Graphs/PIXTA)「2024年問題」により、近年、何かと注目を集める「物流」。これまで「物流は『コスト』であり、最小化することに尽きる」と考える人が多かったが、現実はそうではないという。物流が「プロフィット=利益」を生むものだと考える会社は、競争に強いだけでなく、大きく成長するポテンシャルがあるーーそう指摘するイー・ロジット取締役会長兼チーフコンサルタントの角井亮一氏が、成長企業の「ドミナント戦略」について解説します。 ※本稿は、角井亮一氏の新著『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』から一部抜粋・再構成しています。

単なる「コスト」として捉えられてきた物流

長い間、物流を本業としない多くの企業では、主に取引先との間で必要になる物流機能は、利益を生まないコストとして考えられてきました。

しかし、日本経済が鈍化する一方で、インターネットの普及によりネット通販市場が急拡大するなか、自社の物流機能をどう組み立てていくかによって、新たに競合企業との差別化を図れて、企業の競争力にも大きな差が生まれることが理解されるようになってきました。

つまり、戦略物流の重要性が高まっているのです。

もし、社内の物流部門をいまだに外部コストととらえ、他の部門から後回しにされるような社内体制の企業は、本業の事業展開において、間違いなく損をしているといえます。

では、戦略物流を考えていくにあたって、まず何から考えればいいのか。そのひとつが「ドミナント(dominant)戦略」です。

たとえば、街中や繁華街を歩いていて、とくに、コンビニエンスストアやドラッグストア、コーヒーチェーンや居酒屋チェーン、クリーニングチェーンなどのように、どこもあまり変わりばえせず、商品やサービスにもあまり差がない店で、「ここにも、そこにも、またあそこにもある。どうしてなんだろう」と疑問に思ったことがある人は少なくないと思います。

そのとき、このお店(あるいはそのチェーン全体)に対して、どのような印象をもったでしょうか。

「たくさん出店しているということは、それだけ人気があるのかも。今度、利用してみよう」「出社するときはこっちのA店、帰りは向こうのA店が使いやすそう」「こっちが混んでいたら、向こうを利用すればいいか」「同じお店(=同じ看板、屋号)だけど、それぞれ同じなのかな。店ごとに何か違うのだろうか」「同じ店同士で、お客さんの取り合いにならないのだろうか。どちらかがなくなって不便にならないか心配」「同じ業態・業種だけど、この地域にお店がたくさんあるところと、1店しかないところとでは、特別な違いがあるのだろうか」

プラス面もあれば、マイナス面もありそうですが、その店に対して何らかの印象をもつことは間違いありません。ドミナント戦略のねらいのひとつが、この点にあります。

ドミナント戦略を活用するセブン-イレブン

英語のドミナント(dominant)には、「支配的、優位的」という意味があります。そのため、ビジネスの世界では「一定のエリアのなかで優位性、支配力をもつ」という意味で使われています。

つまり、ドミナント戦略とは、特定の地域に集中して出店して地域でナンバーワンの知名度・認知度を獲得し、その地域内でナンバーワンの売上を確保することを目的とする戦略です。

ドミナント戦略を打ち出す企業は珍しくありません。しかし、企業によってその取り組み方はさまざまです。

ドミナント戦略を有効に使って企業成長につなげている日本企業といえば、まずコンビニエンスストアをフランチャイズ(FC)展開するセブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン-イレブン)があります。

実はファミリーマートやローソンなど、他の大手コンビニチェーンと比べて店舗の展開エリアの拡大スピードがゆっくりしているのです。

セブン-イレブンは、いわずと知れた国内で2万店以上をFC展開するコンビニエンスストアナンバーワン企業。

現在、同社をはじめ、大手コンビニチェーン3社はいずれも日本全国47都道府県に進出を果たしており、全国進出を果たした年と、その当時の展開店舗数を見ると、明らかな違いがわかります。

競合をはるかに上回る店舗数での全国展開

セブン-イレブンが、沖縄県で出店し全国進出を果たしたのは2019年。そのころの店舗数はすでに2万店を超えていました。

いちばん早いタイミングで全国進出を達成したのはローソン。1997年沖縄県への出店で全都道府県に店舗を展開することになり、当時の店舗数は6000店余りでした。

ファミリーマートの場合は2006年。こちらは北海道が最後の進出エリアになりましたが、約1万2500店の規模がありました。

また、業態は違いますが、ドラッグストアチェーンのマツモトキヨシホールディングス(現マツキヨココカラ&カンパニー)が、和歌山県への出店で全都道府県に店舗展開を達成したのは2020年のことで、店舗数は1700店規模でした。

このことから、いかにセブン-イレブンが、ドミナント戦略を展開することにより、じっくりと店舗の出店エリアを広げてきたかがわかると思います。

ちなみに、現在の大手コンビニチェーン3社の国内店舗数と、1店舗当たりの平均日販(1日の売上高)は次のようになっています(いずれも、2023年2月期決算より)。

*セブン-イレブン

・国内店舗数:2万1402店舗 ・平均日販:67万円

*ファミリーマート

・国内店舗数:1万6533店舗 ・平均日販:53万4000円

*ローソン

・国内店舗数:1万4631店舗 ・平均日販:52万2000円

見事なまでに、全国展開にじっくり時間をかけた順に、現在の店舗数、平均日販になっています。

(出所:『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』

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自社競合もいとわないドミナント出店

急速に進む少子高齢化と人口減少により、いま、日本国内の小売市場は成長頭打ち状態に入っています。そのなかにあって、まだまだ成長を続けている市場がドラッグストアです。

その大手チェーンのなかにも、ドミナント戦略を打ち出し、成長を図っているところがあります。

創業は九州の宮崎県、九州エリアで圧倒的なシェアを誇るコスモス薬品は、大手食品スーパー顔負けの食品売上をあげているドラッグストアです。同社は成長戦略としてドミナント出店を掲げ、「自社競合もいとわない」勢いで東へ、東へと拡大を続けています。その勢力はいまや関東にも広がり始めています。

福井県・石川県を本拠に、岐阜県、愛知県、滋賀県へと南下を進めるGenky DrugStoresの場合は、「シェアナンバーワンになるまでは新規エリアに進出しない」という方針のもと、徹底した店舗運営の標準化と単純化、自前の物流センター構築を進め、どこの同社店舗を利用しても、生鮮品や総菜を含め、同じように買い物ができる店舗展開を図っています。

立地条件によって店舗の機能を振り分ける

神奈川県で圧倒的シェアトップのクリエイトSDホールディングスでは、県内でのドミナント化を進めています。

『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』(日本実業出版社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

食品スーパーを子会社にもち、青果・精肉・鮮魚の生鮮三品も扱う同社ならではのドミナント展開にもチャレンジしています。

たとえば、ある私鉄駅から徒歩5分圏内に3店舗を展開していますが、それぞれの立地条件により、少しずつ店舗の機能に違いを設けています。

線路沿いにあり、駅からすぐ目に入る店では、日用雑貨、医薬品、化粧品のほかに、加工食品、生鮮品にも力を入れています。

同店とは駅の反対側にある店では、生鮮を扱わずに、調剤薬局を併設し、駅からいちばん離れた場所にある店の場合は、敷地に余裕があることから十分な駐車場スペースをとり、ストック用としてのまとめ買いが見込める冷凍食品を充実させています。

こうした機能や品揃えの差別化により、同じクリエイトSDの3店舗を顧客が使い分けられるように利便性を高めています。

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