子どもへの欲、期待、焦りを最小化する方法とは(写真:kapinon/PIXTA)【質問】新小4で中学受験する予定の娘がいます。成績はいわゆるボリュームゾーン(偏差値中程度)でパッとしない状態が続いています。娘は「中堅校狙いのマイペース受験でいいや」と言いますが、昨今中堅校の人気が上がっており、正直、私は焦っています。親の欲、期待、焦りを最小化するためのアドバイスをお願いします。仮名:福田さん

愛情ゆえの「欲と期待」から生まれる「焦り」

元々、親の「愛情」からスタートした子育ては、やがてさまざまな要因によってその愛情ゆえに「欲」が出てきて、それはやがて「期待」に変わり、その期待通りに進まないと最後は「焦り」になることがよくあります。

それはしばしば起こる現象ではありますが、焦りは少ないほうがよいに越したことはありません。しかし、欲や期待が強くなってしまう傾向はなかなか変えることはできません。

これまで筆者は1万3000人以上の保護者の方から相談を受けてきましたが、その多くの根底には、「親の欲と期待」から生まれた「焦り」がありました。完全になくすことはできないまでも、最小化したケースは多々あります。そのときに筆者がお伝えした次の3つの手段があります。そのうちの1つでも実践できれば効果が出るかもしれません。

(1)期待値を究極まで下げる〜感謝と満足を持てるか
(2)仮想の基準を手放す〜子ども独自の基準を作る
(3)欲、期待、焦りに使っていた“エネルギー”の向きを変える〜どうすれば今を楽しめるか

それでは順に説明していきます。

(1)期待値を究極まで下げる〜感謝と満足を持てるか

焦りが生まれるのは、親の子どもへの期待値が高いことが原因であることが少なくありません。そもそも期待値は現状よりも常に高い状態にあります。親が子どもに望む状態が現状より大きく超えてしまうと現状とのギャップが大きくなっていき、そのギャップから焦りや絶望感が出てきます。

「そんなに期待値は高くない」と思われるかもしれませんが、親の欲望は気づかないうちに、どんどん上がることがあります。「ここまでできるのだから、これもできるよね」「それもできたのなら、これももっとできるよね」と。

子どもが自分の意思で伸びようとする場合はまったく問題ありませんが、親の意思だけで進めると、このように期待値が勝手に上がり、そこに近づけようとして、指示、命令、脅迫、説得の4手段を使ってしまいます。その結果、子どものモチベーションを大きく下げていきます。

子どもは親の笑顔が見たい

ではどうすればいいでしょうか。簡単です。期待値を下げればいいのです。どこまで下げるかといいますと、究極まで下げていきます。究極まで下げた期待値とは、「この子が健康で生きているだけで感謝、満足」というレベルです。するとそれ以外の出来事は、すべてラッキーな事と受け取ることができます。

究極まで期待値を下げると、次のようなサイクルができます。

①親が笑顔で「この子が健康で生きているだけで感謝、満足」と認識する
②親の子どもへの言葉かけ、態度が「もっと、もっと」から「承認」に変わる
③子どもの自己肯定感が上がる
④心が満たされるため、子どもが自主的に行動する
⑤親は、それをラッキーな出来事とまた「感謝」する
⑥子どもは自分を伸ばそうと挑戦していく

子どもは親の「笑顔」を見たがっています。これは36年間、教育事業に携わってきた筆者の考察結果ですが、例外はないと今でも考えています。子どもが頑張って成果を出したときには親の笑顔が自然と出てくると思いますが、もし子どもが頑張らず、伸びていなかったら、笑顔は出てこないかもしれません。だとしたら、子どもが結果を出すまで笑顔がないことになります。

しかし「この子が健康で生きているだけで感謝、満足」という究極の期待値まで“本気で”下げていけば、笑顔は日々自然と出てきます。そこから、上記のプラスのサイクルが回り出します。

(2)仮想の基準を手放す〜子ども独自の基準を作る

仮想の基準とは、周囲からの同調圧力によって作られた基準、親のこだわりという基準、兄弟姉妹間の比較によって作られた基準のことを言います。つまり、何かとの比較によって自分の子どもを評価すると、どうしても足りない部分に目が行き、それを補うために、「もっと、もっと」が出てきます。もちろん、できていないことは、その子のペースで教えていきます。しかし、その子に合わせないで、親の欲や期待だけで進めてしまうと、子どものリズムは壊れていきます。

では、どうすればいいでしょうか。それは、子ども独自の基準を作ることです。独自の基準とは、「その子らしさの評価基準」と言ってもいいでしょう。

子どもの長所を言語化して伝える

そのために次の2つのステップを踏んでみてください。

①自分の子どもの長所を10個挙げてください

長所とは、その子の中で目立つ凸の部分です。決して他者と比較して良いと思われる部分ではありません。普段から仮想の基準で子どもを見ていると、欠点や短所ばかりが出てきますが、10の長所を出すことができたら、まさに子ども独自の基準を見ていることになります。

②次に、それを子どもに言語化して伝えてください

思っているだけでなく、機会があれば、長所を言語化して子どもに伝えてみてください。「よく気がついて助かるわ」「笑顔がとてもいいね」「その姿勢は美しいね」など状態の長所でもいいですし、「計算速いね〜」「電車の知識はすごいね〜」と能力の長所でも構いません。要するに、子どもの中で凸の部分を言語化して伝えてあげるだけで結構です。

以上のステップによって、子ども独自の基準ができます。この段階で、親の欲、期待、焦りはかなり最小化していると思います。

(3)欲、期待、焦りに使っていた“エネルギー”の向きを変える〜どうすれば今を楽しめるか

最後の方法は、“エネルギー転換”です。今までは子どものことが気になって、気になって仕方がない状態だったと思います。しかし、気にしたところで、余計な声かけをしてしまったり、イライラするだけだったりします。そこで、これまで子どもへの欲、期待、焦りに使っていた“エネルギー”を別に使っていきます。

イメージとしては、スマホのアプリを想像してみてください。「欲アプリ」「期待アプリ」「焦りアプリ」をいつもフル稼働させているため、スマホの電池(エネルギー)はそこで消耗されます。そのようなアプリに電池を使うのではなく、「楽しむアプリ」に電池を使います。具体的には次のようなことです。

「今日という子どもとの貴重な時間をどのように楽しんで過ごそうか?」に意識を向けていきます。すると「楽しむアプリ」に電池が使われていき、「欲や期待や焦り」に向けるエネルギー量が少なくなっていきます。人は同時にいくつものことに意識を向けることができません。子どもを前にしたときに、子どもとの貴重な二度とやってこない「◯歳◯カ月◯日という今日を」どのように楽しく過ごすかと考えていけば、欲や期待、焦りは出てきにくくなります。

円満な家庭を築きつつ、子どもを伸ばすために

以上、3つの手段についてお伝えしました。これらは一見、欲、期待、焦りを最小化させるためだけの方法に見えると思いますが、実はその続きがあります。

これらを行うことで、今までやっていた子どもへの不要な圧力、声かけ、態度が変わっていきます。その結果、子どもに行動変容が起こります。本来の子どもが持っている力が発現し、その子らしく生き生きと活動ができるようになるのです。

中学受験をする親子で「親の子どもへの過度な欲、期待、焦りによって子どもを伸ばさないだけでなく、潰してしまう」こともあると聞きます。また、学力は伸びていても親子関係が悪かったり、夫婦仲が悪化していったりする場合も少なくないと聞きます。学力向上、合格のためなら、親子の信頼関係や家庭内雰囲気を犠牲にしてもよいとしたら、それは本末転倒です。そうではなく、親子の信頼関係を強め、円満な家庭を築きつつ、子どもを伸ばすことは十分可能なのです。そのためには、「親の子どもへの欲、期待、焦り」を最小化させる3つの手段を1つだけでもいいので実行してみてください。その効果に驚くと思います。

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