東京大が検討中の授業料値上げを巡り、反対する学生団体などが14日、国会内で集会を開いた。「家計と大学という、物価高に苦しむ当事者同士で負担を押しつけ合うことは悲劇」として、国に相応の予算措置を求めた。同様に値上げの可能性が浮上している広島大の学生も登壇し「教育格差が深刻化する」と懸念した。(西田直晃)

◆東大の判断は今後他の国公立大にも影響か

 「物価高騰のあおりを受けるのは家計。教育負担は減らす必要がある。国公立・私立を問わず、全ての授業料値上げに反対する」。衆院第2議員会館で、東大法学部4年の松香怜央さん(22)が訴えた。

国立大の学費値上げ反対を訴える東大4年の松香さん(中)=東京・永田町の衆院第2議員会館で

 現在の東大の授業料は、標準額とされる年53万5800円。関係者によると、文部科学省令で認められる上限約10万円の増額を検討している。今月中にも値上げの方針が固まる、との観測もある。  松香さんは、国立大の基盤的経費とされる運営費交付金の増額や、経済的に困難な学生への授業料免除の拡充などを求める要望書を、文部科学省国立大学法人支援課の担当者に手渡した。担当者は「運営費交付金は(2004年の)法人化後、年1%ずつ減額していた」と認めつつ、「昨今の物価高騰が大学の財務に影響していることは認識している。交付金はしっかり確保する」と述べた。  5月中旬に東大の授業料値上げの方針が表面化して以降、広島大、熊本大も今後の増額の可能性を示した。東大の判断が他の国公立大に影響する、との危機感が強まっている。

◆教育格差の深刻化を懸念

 懸念されるのは、学生や教員への十分な説明がないまま、値上げが強行されることだ。広島大文学部2年の原田佳歩さん(19)は「広島大では本質的対話を経ず、2年間も秘密裏に検討されていた。教育格差の深刻化を招きかねない。最大の利害関係者は学生のはずだ。大学統治の改善を求めたい」と憤る。

国立大の学費値上げ反対を訴える広島大の学生(左から2人目)=東京・永田町の衆院第2議員会館で

 中国哲学を専攻し、文系大学院への進学を考えているという原田さん。「大学にカネを稼ぐことが求められるなら、哲学のような、問題解決の基礎となる学問は衰退してしまう。基礎研究の軽視は、社会を貧しくする」と訴えた。  原田さんが言うように、大学が背負わされた「競争力強化」に対し、特に人文系の学生や教員の危機感は強い。実際、広島大で値上げ反対の署名を集めた学生団体も、メンバーの半数が人文系の学部という。

◆「政治家にだまされた」有馬氏は晩年、法人化を悔やんだ

 法人化後の国立大などの苦境を「後悔している。私が大失敗した」と回想したのは、検討開始当時の文部相で東大学長でもあった故有馬朗人氏だ。「橋本行革」のさなか政界入りした有馬氏は、最晩年の2019年、本紙のインタビューに「大学が自主的に考えられる仕組みになるから、法人化はよかろうと。教員が公務員ではなくなる問題点が、よく分かっていなかった」「政治家にだまされた。絶対やっちゃいけなかったことは、人件費につながる運営費交付金の削減」と明かした。

院内集会で国立大学の学費値上げ反対を訴える参加者ら=東京・永田町の衆院第2議員会館で

 法人化により、教育公務員特例法の適用から外れ、「国立大の教員は『非公務員』となり、身分が不安定化した」と解説するのは、岡山大の堀口悟郎教授(憲法)。ただ、当時の法案には「公費投入額を十分に確保」との付帯決議があったとする。「『運営費交付金は減らされない』と有馬氏は考えていた。責められるべきは、当時の政府と国会ではないか」と問う。  この日の集会では東大の加藤陽子教授(歴史学)も登壇し、学生と教職員は運営への参画の機会を有するなどとした東大憲章を、「大学の憲法」と強調した。運営の基本目標の「公正で透明な意思決定による財務計画」という記述を引用し、「今回の決定は、CFO(最高財務責任者)オフィスでなされたもの。全く公正な手続きは取られていない」と批判した。 

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