名古屋工業大学は、国立大学で初めて女性しか受験できない「女子枠」を導入し、30年の歴史があります。工学研究科教授の井門康司・副学長に、経緯やメリット、課題を聞きました。

 1994年度、機械工学科(現在の電気・機械工学科)の推薦入試で「女子枠」を始めました。先輩方から「多様な入試形態の実施が社会から求められていた時期だった」と聞いています。

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 機械工学科は160人の定員に対して、入学する女性は多くて2人という状態で、女性が極端に少ないという状況を改善しようと考えていたそうです。就職担当の教員は「製造業の人事担当者から、機械設計・開発の職場に女性の技術者がゼロに近く、男女雇用均等法もあり、困っている」と言われていました。せめて「マイノリティー」として意識できる程度まで女性学生を増やそうと話が進み、定員160人に対し10人の女子枠を設けました。

 併せてインフラ整備も進めました。機械工学科の建物には1カ所しかなかった女子トイレを各階に設け、更衣室を設置しました。

 その結果、学科の女性学生の割合は初年度に10%を超え、その後も増えていきました。18年度には全学の女性学生比率は19・9%に。大学の環境整備も進み、女子枠以外の「一般入試」を受験し、合格する女性学生も増えたためです。

 24年度入試では、女子枠を導入する学科を拡大しました。女性割合が10%以下と低かった物理工学科と情報工学科でそれぞれ5人、社会工学科(環境都市分野)で3人設けました。

 「女子枠」での合格者に対するスティグマ(差別や偏見)は耳にしたことはありません。成績は、一般入試の前期日程で入学する学生と同程度と分析しています。

 ただ、課題も感じています。一つは「入学までの学習」の問題です。

バイアスがいまだ残っている

 推薦入学者は、男女問わず、進路が決まったことに安心してしまい、入学までに十分な学習をしない傾向が強く、入学後に困ることがあります。そのため、力学の比較的やさしい専門書を貸与し、自習内容をノートにまとめて提出してもらう補習を行ってきました。

 その後、数学(特に数Ⅲ)の学習もきちんと理解しておくことが、入学直後につまずく学生を減らすために重要と考えるようになりました。現在は、大手予備校と連携し、入学前に高校の数学と物理をオンラインで受講してもらうようにしています。

 女子枠で入学した学生は、大学院への進学率が低いことも気になっています。就職状況が好調である以外に、女性は大学院まで行って学ぶ必要がないというバイアスがいまだ残っていると考えています。

女子枠は「経過措置」だったが

 優秀な女性研究者、女性技術者を多く輩出するという状況には、残念ながら、まだまだ達していないと感じています。

 本学では、女子枠は「女性学生の割合が少なすぎる事態」が改善されるまでの「経過措置」ととらえています。ただ、30年経ってもそこまで増えていないもどかしさがあります。

 今年4月入学の電気・機械工学科の女性割合は11・7%でした。大学単体で取り組んでも、これ以上増やすことは難しいようです。欧米諸国などのように理工系の女性をさらに増やすには、社会全体の意識変革が必要ではないかと感じています。(聞き手・北村有樹子)

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