人は一人じゃ生きていけない――。こうつづった埼玉県蕨市の中学2年の女子生徒(当時14)が、いじめを苦に亡くなってから3日で20年になる。いまもいじめはなくならず、自殺する子どもが絶えない。文部科学省のまとめでは、2004~22年度で少なくとも117人がいじめを受けて自ら命を絶ったとされる。両親は「娘の思いを子どもたちに知ってほしい」と願う。

 女子生徒は人権を考える授業で、いじめについて書いていました。亡くなる前日に提出された作文には、いじめに向き合った女子生徒の思いがつづられています。

 自宅の仏壇には、満面の笑みの女子生徒の写真が飾られている。母(63)の目に浮かぶのは、いつも友だちと笑い転げていた娘の姿。家族から離れて墓に一人入れるのが可哀想で、いまも遺骨は自宅に置いている。

 娘が大切にしたもの、書いたものすべてがいとおしく、一昨年まで娘の部屋はそのままにしていた。

「告白ゲームいや」、ノートに書き残し

 女子生徒は2004年6月3日の朝、亡くなった。学校側が同級生に聞き取りをしたところ、女子生徒が同級生から罰ゲームとして男子生徒5人に告白することを強要されていたことがわかった。亡くなる前日に1人に告白させられ、学校のトイレで泣いていたという。亡くなった日は、あと4人に告白させられることになっていた。ほかにも、仲がよかった友だち数人から突然無視されたり、うざい、きもいなどの言葉の暴力を受けたりしていた。

 女子生徒は自宅のノートに「告白ゲームなんていやだ」などと書き残し、命を絶った。罰ゲームを主導した同級生を非難した一方で、ほかの生徒には「ありがとう」という言葉を残していた。

ありがとうの意味は

 両親は最初、ありがとうという言葉が理解できなかった。ただ、時が経つにつれ、娘の優しさだったと思うようになった。

 友だちも本当は自分のことをいじめたくていじめたのではない。今度は自分がターゲットになるのが怖くて加担させられていたのだ。友だちも本当はつらかったのだと思いやりを持ったのだ、と。

「一人のさみしさが複数でいることの楽しさへ」

 女子生徒が書いた作文は葬儀の後、両親の元に戻った。人権を考える授業で書かれ、女子生徒が亡くなる前日に担任に提出したものだった。

 「誰だって自分を否定されるのは嫌だと思うし、つらく悲しいと思います」

 「イジメは自分をどん底まで沈めます」

 「人は一人じゃ生きていけない。だから友達をつくる。一人のさみしさが複数でいることの楽しさへ変わる」

 作文には、いじめに向き合った思いがつづられていた。

「自分を嫌いにならなくてよかったんだよ」仏壇の娘に

 女子生徒は、家族に学校の話をよくしていたが、いじめを受けていることは一切話さなかった。

 父(63)は「家族の前では、いじめられている自分ではなく、いつもの自分でいたかったのだと思う」と話す。作文を読んだ時は「親としてわかってやれなかった」という悔しさと悲しさで止めどなく涙が流れた。

 そして仏壇の娘に毎日、「自分を嫌いにならなくてよかったんだよ。あなたは世界で一番心の優しい、相手の気持ちを思いやることのできる子だったんだよ」と語りかけた。

作文読んだ中学生「イジメは心を殺している」

 両親はいじめ対策や教育指導に生かしてほしいと考え、蕨市教育委員会に対し、調査結果とともに作文も公文書にすることを求め、実現した。

 いじめについて考える授業で作文を読んだ大分県の中学生たちから、手紙が届いたこともある。そこには「イジメは人の心を殺している」「絶対に自ら死んだりしない、人をイジメたりしない」「イジメをとめようと思うことができた」と書かれていた。

 授業はまさに両親が願っていたことだった。両親は「娘へのいじめが終われば、また別の子がターゲットになる。その繰り返しが娘には我慢できなかったのだと思います。娘の命のメッセージを心の片隅でもいいから置いて、相手の気持ちを思いやることのできる、心優しい人になってほしいです」と返事を書いた。

22年度のいじめ68万件で過去最多

 文部科学省の調査によると、04~22年度に自殺した小中高校生4439人のうち、少なくとも117人にいじめの状況があったとされる。「不明」と報告されるケースもあるため、実際はさらに多い可能性がある。

 22年度に小中高校・特別支援学校で認知したいじめは68万1948件。被害者が心身に深刻な傷を負う「重大事態」は923件で、いずれも過去最多だった。

両親「よかったと思える日、必ず来るから」

 両親は、いまもいじめに苦しむ子どもたちがいることに胸を痛める。子どもたちにとって、いまの人間関係がとても大切なことはよくわかる。でも、つらい子は、学校に行かなくてもいいと伝えたい。中学校に行けば、高校に行けば、大学に行けば、社会に出れば、違う世界が待っている。

 「いじめられている子に原因があるわけではない。だから、いじめている子から離れてほしい。逃げてほしい。時間が経つのを待ってほしい。あなたは一人じゃない。よかったと思える日が必ず来るから」(貞国聖子)

■女子生徒が人権を考える授業で書いた作文(いじめについての記述全文)

 私はどうしてイジメをするんだろうと思います。人にはもちろん好き嫌いがあるから、自分と合う人、合わない人がいるのはあたりまえだと思います。

 こう思うのは私だけかもしれませんが、だったらどうしてイジメなんてするんでしょうか? 嫌いならば近づかなければ済むことだと思います。わざわざその嫌いな人を思い出して表面に出すのはむじゅんしているのでは? と思います。自分だってムカムカしてくるだろうし、その相手はもっと悲しい思いをしているはずです。

 嫌いな人にその人達同士にしか伝わらないあだ名をつけ、平気で悪口や残酷な言葉を言っている人。それを言っている本人達は楽しいのかもしれない。でも大声で話せば皆に聞こえて周りが嫌な気分になると思います。私も聞いて、「もしかしたらこの人物は私なのかもしれない。」と思い、不安になり恐くなりビクビクしていた事があります。

 私もこういう風に悪口を言ったことがあります。私が悪口を言った相手もこんな思いをしていたのかもと考えると、申し訳なくなります。

 誰だって自分を否定されるのは嫌だと思うし、つらく悲しいと思います。その人に対して、私はもう必要のない人間なのか、もう世界中誰一人と私をこれから必要としてくれないのか、考えてみたらとても胸が痛くなりました。

 イジメは自分をどん底まで沈めます。

 人には感情があるから、ぶつかりあったり笑いあったりする事ができます。時には、友達の意見に影響され、考え方が変わったり相手を変えることだってあります。主張とだきょうをつり合わせてうまく友達と付き合っていけたらと思います。

 人は一人じゃ生きていけない。だから友達をつくる。一人のさみしさが複数でいることの楽しさへ変わる。

 生活の仕方とか全く同じ友達はいない。だからこそ自分がいろんな感情を知り成長していけるんだと思います。

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