米ロサンゼルスで開かれた「リジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)2024」に臨んだ日本代表の生徒・学生ら=2024年5月17日、村上剛撮影

 世界の高校生らが科学技術の自由研究の成果を競う「リジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)2024」が5月、米ロサンゼルスで開かれ、日本の3研究(5人)が優秀賞を受賞した。67カ国・地域から約1700人が参加。日本からは15研究(22人)が挑んだ。

優秀賞1等 桜蔭高・中辻知代さん

 桜蔭高(東京都)3年の中辻知代さんは、「段ボール箱を再利用した災害時対応 机・折り畳み椅子の設計と製作手法及び手を挟みにくい折り畳み椅子の開発」の研究で、機械工学:静的・動的部門の優秀賞1等を受賞した。

 各国の優れた研究が集まり、英語で審査を受けるISEFで日本代表が1等を獲得するのは16年以来8年ぶり。

優秀賞1等を受賞した桜蔭高の中辻知代さん=米ロサンゼルス、村上剛撮影

 中辻さんは、260キロまでの重さに耐える椅子を段ボールで簡単に作れる方法を数理的に研究し、強度試験を繰り返し完成させた。「Origami Chair」としてプレゼンし、災害時の避難所で活用できるほか、途上国の学習環境を改善できる可能性も示し、高く評価された。

優秀賞1等を受賞し、表彰式の壇上で笑顔を見せる桜蔭高の中辻知代さん(右から4番目)=米ロサンゼルス、村上剛撮影

 中辻さんは受賞後、「研究のクリエーティブな面を評価してもらえてすごくうれしい。椅子が不足している国や被災地などで活用頂くことでさらに発展すると思う」と話した。

将来は、米国の大学に進学し、折り紙、バイオミメティクス(生物模倣)、工学、コンピューターサイエンスの四つの分野を組み合わせた新しい分野をつくることが目標だ。紙を生かす研究を他の家具に応用し、「都会でも自然に囲まれた環境を実現することにもつなげたい」と語った。

 研究の概要はhttps://projectboard.world/isef/project/etsd020-origami-chair

ISEFの優秀賞表彰式の終盤では、中辻知代さんら、各研究部門の1等受賞者が壇上に並んだ=米ロサンゼルス、村上剛撮影

優秀賞4等 近畿大付属豊岡高・池上十和子さん

 近畿大付属豊岡高(兵庫県)3年の池上十和子さんは、「カニ殻からバイオプラスチックを生成する新規微生物の探索と同定」の研究で、微生物学部門の優秀賞4等を受賞した。

優秀賞4等を受賞した近畿大付属豊岡高3年の池上十和子さん=米ロサンゼルス、村上剛撮影

 カニの殻をエサとして、バイオプラスチックの原料の一つ、「ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)」を生産する菌などを発見したことが評価された。

 池上さんは「ISEFでは、いろんな研究や人と出会い刺激を受けた。この研究は、地元の豊岡市のカニを有効活用したい、というアイデアから始まった。将来プラスチック製品にしてビジネスにできたときに、振り返ってよく頑張ったなと思える自分でありたい。そのために今後も精進したい」と喜んだ。

 研究の概要はhttps://projectboard.world/isef/project/mcro013-bioplastics-from-crab-shells-via-novel-microbes

表彰式で壇上に立つ近畿大付属豊岡高の池上十和子さん(中央)=米ロサンゼルス、村上剛撮影

優秀賞4等 米子高専・吉田浩瑛さん、前田孝太朗さん、鐘築昇太郎さん

 米子高専(鳥取県)4年の吉田浩瑛さん、3年の前田孝太朗さん、2年の鐘築昇太郎さんは、「日本の公開天文台の標準機を目指した次世代型天体観測用分光器の開発」の研究で、物理学・天文学部門の優秀賞4等を授与された。

優秀賞4等を受賞した米子高専の(右から)吉田浩瑛さん、前田孝太朗さん、鐘築昇太郎さん=米ロサンゼルス、村上剛撮影

 星の動きや年齢、距離を知るための、星の光を波長ごとに調べる分光器を安く簡単に自作する取り組みが評価された。吉田さんは「行き詰まることや苦しいこともたくさんあったが、一つのことを貫き通すことの大切さを実感した。この分光器のつくり方を広め、天文学の発展に貢献したい」と話した。

 前田さんは「家族や友達、科学部の部員や先生方、ほか数え切れないほどの支えがあってできた。これからも人とのつながりを大事にしたい」と感謝の思いを語った。鐘築さんも「ISEFは人生の中でも大きな経験となった。この経験を生かして、世界のいろんな人と交流したい」と述べた。

研究の概要はhttps://projectboard.world/isef/project/phys023t-development-of-an-astronomical-spectrograph

表彰式の壇上でガッツポーズを見せる米子高専チーム=米ロサンゼルス、村上剛撮影

特別賞

 協賛団体などが選ぶ特別賞は、「データアクイジションにおけるAGIバイアス解決へ」を発表した東京学芸大付属国際中等教育学校6年の小谷理人さんが「ノン・トリビアル賞」、「アルテミシニン誘導体の抗マラリア活性評価」を発表した徳島市立高3年の塚井優美さんが「医薬・化学・関連技術協会賞」をそれぞれ受賞した。

 桜蔭高の中辻さんには、優秀賞1等に加えて、サウジアラビアの財団からの特別賞「アブドゥルアズィーズ国王財団の才能創造性賞」が贈られた。

 ISEFは世界最大の科学コンテストと言われ、出場者が後にノーベル賞を受賞するなど、国際的に活躍する研究者の登竜門とされる。

 日本からは毎年「JSEC(高校生・高専生科学技術チャレンジ)」(朝日新聞社・テレビ朝日主催)と「日本学生科学賞」(読売新聞社主催)で高く評価された研究が出場。優秀賞受賞者には、日本の文部科学省から「文部科学大臣表彰」が、その他のISEF出場者には「文部科学大臣特別賞」が授与される。

各国からの出場者でにぎわうISEF会場の米ロサンゼルス・コンベンション・センター=村上剛撮影

 JSECを経てISEFに臨んだ研究は、優秀賞の3研究のほか、以下のとおり。

・ノートルダム清心学園清心女子高(岡山県)3年 植野涼子さん  「稲踏み効果の科学的検証Ⅱ」(植物科学部門)

・茨城県立並木中等教育学校(茨城県)6年 野末紗良さん 「竹繊維保水性舗装によるヒートアイランド現象への挑戦 ~竹繊維の吸水・保水性の活用~」(材料科学部門)

・三田国際学園高(東京都)3年 角野陽奈美さん 「疾患原因となるアミノ酸変異の解析」(計算生物学・バイオインフォマティクス部門)

・筑波大1年(宮城県古川黎明(れいめい)高出身) 佐藤怜さん 「炭酸カルシウムのリーゼガング現象」(化学部門)

・ 京都大1年(滋賀県立膳所高出身) 田﨑奏楽さん 「他次元の原子の電子収容数を定める 『電子収容数次元理論』」(物理学・天文学部門)

・宮城県仙台第三高2年 大場誠也さん、志田京太郎さん  「白金箔(きんぱく)における水素と酸素の反応の研究」(化学部門)

・静岡理工科大学静岡北高(静岡県)2年 遠藤碧海さん 、梅原明雅さん 、八木結希さん「酸化マグネシウムとアルミニウム箔(はく)を組み合わせた放射冷却材の開発」(エネルギー:サステナブルな素材とデザイン部門)(村上剛)

ISEFの表彰式後、記念撮影をするJSECからの日本代表=米ロサンゼルス、村上剛撮影
ISEFの会期中には、日本代表と、大会を支えるバイオ医薬品企業・リジェネロンのジョージ・ヤンコポーロス社長(後列中央)との対話などのイベントも行われた=米ロサンゼルス、村上剛撮影
ISEF会場で交流する三田国際学園高の角野陽奈美さん(右)、茨城県立並木中等教育学校の野末紗良さん(中央)。左はバイオ医薬品企業・リジェネロンのジョージ・ヤンコポーロス社長=米ロサンゼルス、村上剛撮影

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