「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。本記事では、マネジャーの指示に対して部下が従いやすい指示の出し方を、「話し方改革」として解説する。その際に、部下を7タイプに分類することで、それぞれに対応する話し方を提案していく。
「話し方改革」基本の3タイプ
部下は指示に対する反応の速さに応じて7タイプに分類できる。最初から7つすべての解説をするのではなく、まずは基本の3タイプを紹介しよう。
『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)(1)自燃人(じねんじん)→すぐに燃える人
(2)可燃人(かねんじん)→すぐには燃えない人
(3)不燃人(ふねんじん)→ほぼ燃えない人
たとえば、
「これまでは既存のお客様対応が中心だったが、今後は新規開拓をメインにやっていこう。理由は3つある……」
と、このように説明されて、
「わかりました。やります」
と即答するのが「自燃人」だ。自燃人は3種類に分けられ、それぞれにアフターケアの仕方が変わるが、それは後述する。
とにかく変化スピードが最も速いメンバーを「自燃人」とカテゴライズしよう。しかし自燃人は通常、1~2割ぐらいしか存在しない。8~9割は「自燃人」以外である。だから、いつも1回や2回しか指示や依頼をしない上司は、
「わが社には、不燃人ばかりだ。可燃人なんていない」
とレッテルを貼ってしまう。しかし私は現場に入って組織の空気、風土、文化を変えるコンサルタントだ。可燃人と不燃人の見分け方を知らないから、そのようにレッテルを貼ってしまうのである。
2種類の可燃人とは?
働きかけても、なかなか行動が変わらない相手を見ると「みんな不燃人だ」と言いたくなるのはわかる。しかし、実際はそうではない。可燃人と不燃人の違いを詳しく解説していきたい。
まず、可燃人は変化するスピードによって2種類に分けられる。
(2-1)アーリー可燃人→アーリー可燃人は比較的早く新しいアイディアに賛成し、行動を変えることができる。(2-2)レイト可燃人
→レイト可燃人はアーリー可燃人が行動を変えたのを見てから、徐々に受け入れる。
可燃人の典型的な反応は「総論賛成、各論反対」である。たとえば上司が「新規開拓を強化しよう」と提案したとき、彼らは賛成する。「そうですね、わかりました」と答えるが、具体的な計画について話が進むと、「ちょっと待ってください」と抵抗を示すことが多い。
この際、「考えたって一緒だ。新規開拓の目標から逆算すれば、50社への定期接触は必要だ」と強く迫るのではなく、相手が根負けするまで待つべきだ。粘り強く、根気よく対応することが重要である。
可燃人はイノベーター理論のアーリーマジョリティやレイトマジョリティに似ている。新しい技術や製品をどのタイミングで受け入れるかによって、彼らのタイプが決まる。
重要なのは、上司が様々なアプローチを試み、効果的なコミュニケーションをとることである。ただテクニックを駆使するのではなく、相手を理解し、根気強く対応することが、可燃人を動かす鍵となる。
自燃人と自燃人以外はすぐに見分けがつくが、可燃人と不燃人の区別はどうだろうか? 注意深く観察すれば、意外と早い段階で識別できる。
可燃人は迷う傾向があり、「そうは言っても……」や「考えさせてもらえませんか」と時間稼ぎをする。対照的に不燃人は迷わないことが多く、自燃人に似て周囲の影響を受けにくい。初めは「ちょっと考えさせてください」と言うかもしれないが、2回目の話し合いで「周りの人がやっても、私はやりません」と断言することがある。「私を説得しようとしても無理です」と冷たく拒否する。
とても厄介な不燃人2つのタイプ
不燃人には、以下の2つのタイプがある。
(3-1)ジャスティス不燃人(3-2)こじらせ不燃人ジャスティス不燃人は、裁判官のように中立で冷静。集団同調性バイアスにかからず、「周りが何と言おうと厳正に判断します」と一貫して主張する融通の利かない存在だ。「みんながやってるからやるべき」と言われても、「みんながやっているからといって私がやる理由がわかりません」と反論する。
しかし、データや図表を用いて丁寧に説明すれば理解し、受け入れる。「なるほど、そういうことですか。では、明日から50社に連絡を取ります」と応じることもある。
ジャスティス不燃人は上司から見ると「面倒な存在」と思われがちだが、彼らの批判的思考能力は、組織リーダーの暴走を防ぐのに役立つ。上司が直感的な対応に困る場合は、論理的な思考を持つジャスティス不燃人に説明を任せるのが良い。「君から説明してくれないか」と頼むと、理路整然と説明してくれるだろう。感情に流されることなく、必要な説明を堅実に行うので、組織には欠かせないメンバーである。
こじらせ不燃人の対応は一層の注意が必要だ。彼らはリーダーや組織に対する不満が深く、しばしば反抗的な態度を取る。「イヤと言ったら、イヤです。理由はありません」と一点張りし、無理に動かそうとすると、最悪の場合は離職やパワハラだと訴えることもある。
ジャスティス不燃人とこじらせ不燃人は、問題の所在が異なるため、全く違うアプローチが必要である。ジャスティス不燃人は指示や依頼に納得していないのに対し、こじらせ不燃人は上司や組織自体に不満を抱えている。どんなに理路整然と説明しても、彼らを納得させるのは困難だ。
問題が深刻であれば、他部署の役職者や経営陣が仲裁に入ることも考えられるし、外部のコンサルタントの介入が必要な場合もある。どんなに粘り強く話をしても動かないこじらせ不燃人への対応は、なぜ動かないのかを正しく理解し、関係がさらに悪化しないよう慎重に対応しよう。
すぐやるメンバーを正しく見極めよう!
最後に自燃人について、詳しく解説する。
正直なところ、最も重要なのがこの自燃人である。すぐに燃える人だから上司にとっては都合がいい。ところが自燃人との関わり方を間違えてはならない。不燃人と異なり、自燃人は組織内で大きな影響力を持ち、その行動が可燃人にも影響を及ぼす。信頼関係を保つことができれば、組織全体を効果的に動かすことが可能だ。
自燃人は主に以下の3つのタイプに分けられる。
(1-1)エリート自燃人→知的で洞察力があり、上司の指示を迅速かつ効率的に実行する。彼らは上司にとって強力な支援者であり、その的確な判断で組織内でも尊敬されている。(1-2)ピュア自燃人
→素直で純粋、指示されたことを疑わずに実行するが、その単純さゆえに応用力に欠けることがある。指示に従うことで上司にとっては都合が良いが、創造的な解決策を期待するのは難しい。(1-3)クセのある自燃人
→感覚的に行動し、上司の指示に忠実に従うが、その執着心や粘着性が特徴的。目標達成のためなら、標準的な方法を超えた努力を惜しまない。彼らの行動力と情熱は組織にとって非常に価値があるが、自己中心的な行動が問題となることもある。
ピュア自燃人やエリート自燃人と比べ、クセのある自燃人は上司にとって心強い存在だが、その承認欲求の強さから特別な扱いを求めることが多い。多くの場合、「君だけが私の力になる」と感じさせることで、彼らの最大のパフォーマンスを引き出すことができる。しかし、これを怠ると、彼らはこじらせ不燃人へと変わりうる。愛の反対は憎しみであり、そのバランスを取ることが組織運営のカギとなる。
「その気」になる5つの理由
自燃人、可燃人、不燃人に沿って7つのタイプに分けて特徴を説明してきた。次に、各タイプをどうしたら動機付けられるか、その方法と注意点をまとめる。
タイプ別の動機付けは次の5つの理由に基づく。
(A) 指示内容が組織の目的に合致し、妥当であるため(B) 指示内容を厳密に検討し、妥当であると判断
(C) 総合的な利益を考慮し、指示に従う方が良いと判断
(D) 周囲も従っているため
(E) 上司の指示であるため
各理由は論理性の高低に応じて分類される。以下、各タイプに最も効果的なアプローチを解説する。
(1-1)エリート自燃人は(A)と(C)の理由で動機付けられる。論理的であり、指示の妥当性や組織全体の利益を見極める能力がある。彼らには指示の背景を明確にし、理解させることが重要だ。(1-2)ピュア自燃人と(1-3)クセのある自燃人は(E)の理由で動く。単純に上司の期待に応えたいという動機から、指示に迅速に従う。特にクセのある自燃人には感謝を示し、彼らの努力を認めることが後押しとなる。(2-1)アーリー可燃人は(A)と(C)の理由で刺激を受ける。新しいアイデアに対してはオープンだが、時には説得が必要。論理的に説明し、何度かの対話を通じて彼らの支持を得る。(2-2)レイト可燃人は(D)で動くことが多い。彼らは周囲の動きを見てから行動を決めるため、他の同僚が同じ指示に従っていることを示すことが効果的だ。(3-1)ジャスティス不燃人は(B)で動機付けられる。非常に厳密な論理と証拠を要求するため、指示の根拠を詳細に説明する必要がある。一方、(3-2)こじらせ不燃人は通常の動機付けではほとんど反応しない。特に難しい対象であり、個別のアプローチが必要である。「話し方改革」で最も重要な根回しのテクニック
「話し方改革」の基本は主に2点に集約される。
(1)対象のタイプに応じて話す順序を変える(2)対象のタイプに応じて話し方を工夫する
この改革で最も重要なのは、話を伝える部下の「順序」である。正しい順序は以下の通り。
①クセのある自燃人(個別告知)②エリート自燃人(個別告知)
③ジャスティス不燃人(個別告知)
メンバー全員への全体告知
④ピュア自然人
⑤アーリー可燃人
⑥レイト可燃人
⑦こじらせ不燃人
全体への告知前に特定の3タイプの人々と事前に話し合うことが肝要である。これを一般に「根回し」と称する。
まず、クセのある自燃人から接触するのが理想である。「まだ誰にも伝えていないが、君には先に知っておいてほしい」といった特別扱いが彼らには効果的だ。上司からの直接の言葉を重んじる傾向にあるため、その点をうまく活かし続けることが大切である。
次にエリート自燃人へは、上司以上に洞察力があるため、指示の意図をしっかりと説明し、「どう思う?」と相談形式で接する。彼らの返答は戦略を練る上での貴重な手がかりになる。誤った仮説を設定していた場合、優しく正しい方向へ導いてくれるだろう。
ジャスティス不燃人に対しては、最も準備が必要だ。指示の妥当性を、裁判官に説明するように、事実とデータをもって彼らを説得する。彼らが納得すれば、その指示が妥当であるという「お墨付き」を得たと同義である。
重要な「可燃人」対策
「話し方改革」の後半戦では、事前の根回しを終えた上で、組織メンバー全体に向けた告知が中心となる。このとき、ジャスティス不燃人に納得してもらった鉄壁の論理で話を進め、熱意も込めることが重要だ。クセのある自燃人には目配せをして、彼らの協力を引き出す。
「課長の言うとおりですね。やりましょう!」
といった反応が得られる可能性がある。ピュア自燃人はこの時初めて情報を得るが、彼らは単純で受け入れが早い。
「そうですか。わかりました!」
とすぐに答えるだろう。このグループには特別な準備は必要ない。多くの組織メンバーは「可燃人」に分類され、変化に対しては自然と抵抗する傾向にある。彼らは周囲の反応を見て自らの態度を決める。
「マジか……」
という反応が典型的だ。特にエリート自燃人の反応を注視する。彼らが納得しているように見えれば、「可燃人」も外堀が埋まったと感じるだろう。
そこで「1on1ミーティング」を実施し、個別に意見交換を行う。これにより、集団の中で意見が左右されることなく、各個人の真意を引き出せる。事前の根回しが十分であれば、「1on1」での対話はスムーズに進む。
「わかりました。やりますよ」
という合意が得られるはずだ。この段階でアーリー可燃人が承諾すれば、組織の過半数が新しい方向に向かうことになる。レイト可燃人へは、
「Jさんも、Eさんも先週から新規開拓に取り組んでいます。そろそろ始めましょう」
と動機づける。組織の大部分を占める「可燃人」は重要な対象であるため、共感を持ってコミュニケーションを取ることが必要だ。彼らからの反論には、
「大変なのは分かっています。でも話を聞かせてください」
と穏やかに応じ、理解を示すことが大切だ。こうして段階を踏んで対話を重ねることで、レイト可燃人も徐々に態度を変えていく。
最終的には、全員が同じ方向を向いた時、残る課題はこじらせ不燃人だけとなる。彼らには第三者を交えて対話を続けるなど、柔軟なアプローチが求められる。他の組織でなら力を発揮するかもしれないので、いろいろな関係者と協力しながら本人と話し合うしか道はないだろう。
組織の空気づくりも含めた「話し方改革」
どのようにして人を動かすのか? 行動を変えてくれるのか? 部下を「その気」にさせる話し方を「話し方改革」と名付けた。
「話す技術」を鍛えるだけで一個人を動かすことは現実的には難しい。だから組織の空気をうまく活用しつつ、タイプごとに話す順番、話し方を変えることが重要だ。
こうすることで、スムーズにストレスなく人を動かすことができるようになる。お客様を「その気」にさせるときにも活用できる。ぜひ「話し方改革」を試してもらいたい。
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