「リーダー」の仕事とは?
メンバーの仕事とリーダーの仕事の違いがわかっていないメンバーとマネージャーはまったく異なる仕事と心得る
あなたはリーダーの仕事をどのように捉えているでしょうか。
リーダーに抜擢された人であれば、おそらくメンバーやプレイヤーであったときに、高い実績を出してきているのではないでしょうか。それを評価されて、リーダーやマネージャーになっているはずです。
すると多くの人が、リーダーの仕事、マネージャーの仕事を、これまでのやり方の延長線で考えてしまいがちです。
部単位でバラバラに管理していた文房具などの消耗品を、いくつかの部でまとめて一元管理し、効率化を図るというプロジェクトが炎上するまでの私も、そうでした。
プロジェクトメンバーである各部の庶務担当の人たちとの人間関係が悪くなり、非常に険悪なムードになりました。
炎上してもなお、自分の何かが間違っていることには気づけても、何がいけないのかがわかりませんでした。
信頼できる上司や後輩に相談したり、本を読んだりして、リーダーの役割とはどういうものなのかを勉強しました。そのようなプロセスを経て、やっとたどり着いたのが、この結論です。
「自分がメンバーとして経験してきた仕事だから、自分はこの仕事に精通している」と考えているのが、そもそもの失敗のもとだということ。
「マネージャー」の仕事は、「メンバー」の仕事の延長上にあるのではありません。「マネージャー」と「メンバー」とはまったく別の職種なのです。その認識を当時は持っていませんでした。
「マネージャー」とは、自分の部署やチームのメンバーたちの個性に合わせて人を活かすことが仕事です。
まずはその認識が必要だったのです。
「人の感情」への配慮がなかった
リーダーのイライラを周囲に感じさせてしまうできないメンバーを一方的に叱りつけてしまう
メンバーや部下の話をどのように引き出せばいいのかわからない
メンバーの本音がわからない
リーダーがいつも正しいことを言っていれば、メンバーは無条件にリーダーについていくでしょうか。
考えてみてください。「この人の言うことはいつも正論だ。けれど、ついていけない。どこか受け入れられない」ということは、仕事でもそれ以外でも、よくあることかと思います。
ですから、リーダーがいくらきちんと目標や業務計画を立てて、それを論理的に伝えたとしても、受け取る側のメンバーの感情を考慮に入れていなければ、メンバーはリーダーにはついてきません。
プロジェクト炎上後の私に、同じ部署で仕事をしていた後輩で、プロジェクトメンバーと親しかったある人が、私にそっとささやいてくれたアドバイスが、この感情に関することでした。
これこそが、私が変わる一番のきっかけです。
この後輩は、「園部さん、プロジェクトメンバーのみんなから批判を受けているようですが、いったい何をしたんですか?」と、私にそっと聞いてくれました。
私は、プロジェクトの進め方のあらましを説明し、「これだけしっかり仕事をしたし、結果も出たのに、何が悪かったのか教えてほしい」と、後輩に尋ねました。
返ってきた答えは、「人には感情があるんですよ」という言葉でした。
つまり、次のようなことを、私はしてしまっていたのです。
プロジェクトメンバーのうち、1人の消耗品管理の方法が優れていたからといって、「皆、このやり方に合わせてください」と一方的に指示すれば、ほかのメンバーは自分たちがバッサリ切り捨てられた、やり方を否定されたと感じて、当然おもしろくありません。
さらに、業務効率化が成功し、それまで各部署の各メンバー全員で行っていた業務を、誰か1人が担当すればよくなったことで、「自分の仕事を奪われた」と感じる人が出ていました。
仕事がうまく回ればそれでいいと考えていた私は、メンバーたちの感情についての配慮が大きく欠けていたのです。
メンバーたちにはその後、自分に悪気はなかったけれど、配慮に欠けていて傷つけてしまったことを謝罪しました。
それで一応、人間関係は修復したものの、完全には許してもらえていなかったと思います。そのときに初めて「感情って何だろう。自分はどう変わればいいんだろう」と考えはじめたのです。
メンバーや部下の仕事の扱い
信頼関係をどのように構築すればいいのかわからないメンバーの強みがわからず、うまく引き出してあげることができない
あなたは、チーム全員の仕事の分担をどのように決めるのがいいと思いますか。
リーダーが正しく業務の洗い出しを行い、目標や業務計画をきちんと立てて、メンバーの分担を事細かに決めてあげる。それが一番早くて、合理的。それこそがリーダーシップを発揮することである。そんな考えを持っていませんか。
それは一見、正しいように感じられると思います。
しかし、多くの人は、自分で考えたり決めたりすることにモチベーションを感じます。人から一方的に押し付けられるのは嫌なもの。いわゆるやらされ感です。私が本気で変わろうと考えて、周りを見るようになったとき、少しずつそのことに気づきました。
するとまずは、すぐ近くの部署に、「こんなリーダー、上司になりたい」と思えるようなマネージャーの存在に気がついたのです。
その人のもとには、部下たちが入れ替わり立ち替わり相談に行っていて、さながら“行列のできるマネージャー”といった体でした。しかも、相談に行く部下は誰もが、笑顔でそのマネージャーと話をしています。
そして、部下が「これはこういうふうにやろうと思うのですが、どうでしょう?」と持ち掛けると、そのマネージャーは「いいよ、いいよ、思ったようにやればいいよ」と、何にでもOKを出しているように見えたのです。
それは、私が経験したことのない光景でした。
まず、部下が自ら私に相談に来ることは、あまりありませんでした。
それに、私に笑顔で話しかけるようなこともありません。また、私自身が部下に対して、そんなに明るく、GOサインを出してはいませんでした。
「人には感情がある」となかなか気づけなかった私でも、やはり部下に嫌われるのは気持ちのいいものではありません。“部下に嫌われ続けるマネージャー人生”なんて嫌だなと、素直に思いました。
そのとき、後輩に言われた「人には感情があるんですよ。園部さん、そんな簡単なこともわからないんですか!?」という言葉の意味が、少しわかるようになりました。
要は、部下の感情をくみ取らなければ、信頼されないし、相談にも来てくれないということです。
今思えば、とても当たり前のことですが、当時の私には、まったく思いも寄らないことでした。
信頼できないリーダー、相談したくないリーダーと、部下との間に、心地よいコミュニケーションが生まれるはずがありません。ただ、リーダーから部下に、一方的に仕事の指示を出しているだけでは、部下のモチベーションが上がるはずがなかったのです。
モチベーション高める「自己決定感」
「私も“メンバーに気軽に相談してもらえるマネージャー”を目指そう!」
私は理想とする明確なリーダー像をイメージし、まずはそのリーダー像を実践するのに参考になりそうなビジネス書を、片っ端から読みはじめました。
そのたくさんのビジネス書の中から見つけたのが、「自己決定感」という、リーダーにとって非常に重要な考え方でした。
この言葉の基になっているのは、1985年にアメリカの心理学者、エドワード・デシ氏とリチャード・ライアン氏が提唱した「自己決定理論」で、自分から自発的に決定することがモチベーションや成果に影響するというものです。
この理論に端を発して、モチベーションを高めるためには、誰かに言われたからではなく、自分で決めて自発的にやっているという「自己決定感」が必要であるという考え方が広まったのです。
「自己決定感」とは、噛み砕いていうと、「リーダーが決めるのではなく、まず部下やメンバーに考えてもらおう」「部下やメンバーに自分で決めてもらおう」という考え方です。
「人は自分で決めたい動物なんだな」と、自分のこれまでの経験でも、一方的に上司に指示されるより、自分の意見を聞いてくれたり、やり方に裁量を持たせてくれたときにやりがいを持って仕事ができたなと思い返し、やっと腹落ちしたのです。
モチベーションを上げる方法
かつての私のように、効率重視で仕事の分担から進め方までリーダーが一方的に決めて指示を出す方法では、部下やメンバーのモチベーションが上がるわけがなかったということです。
『変化をもたらすリーダーは何をしているのか?』(フォレスト出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします私は試しに、会議などで仕事の分担を決める際、「やりたい業務をやってもらいたいです。それぞれどの業務を担当したいですか?」という具合に、自分たちで選んで決めてもらうようにしてみました。
もしメンバー同士、やりたい業務が被ってしまったときには私が間に入って調整しましたが、それも本人の考えを確認し、進んでその仕事を担当できるようにしたのです。
そうすると、メンバーたちのモチベーションがみるみる上がって、主体的に仕事をしてくれるようになりました。
そして、私のところに相談に来てくれるようにもなりました。
それまでのメンバーの様子とのあまりの変わりように、ものすごいギャップを感じましたが、自分が試してみたことに結果がついてきたので、少しずつ自分のマネジメントに手ごたえを感じるようになりました。
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