ハイメ氏はスペインのマドリード出身。アジアでの暮らしは8年目になり、約5年前にエドリントン香港に入社した
<1824年の創業から今年で200周年を迎え、東京・原宿でアニバーサリーを記念したエキシビション「THE HEART OF THE SPIRIT TOKYO EXPERIENCE」をこの11月に開催したザ・マッカラン。世界最高峰のシングルモルトのアジア戦略について、エドリントン・グループの北アジア・マネージングディレクターを務めるハイメ・マーティン氏に聞いた>
――ハイメさんはエドリントン・グループの北アジア・マネージングディレクターとして、日本や香港、マカウや韓国などの市場を統括されています。近年はアジアでもシングルモルトが大人気になっていますが、それぞれの市場にはどのような特徴がありますか?
ハイメ 日本は我々のパートナーであるサントリーが100年も前からウイスキー造りを行ってきた国であり、常にアジアにおけるウイスキーカルチャーをリードしています。そんな日本に近い台湾でも、早くから高品質なウイスキーが飲まれてきました。
また、山﨑や白州、響といった日本のウイスキーが世界的に高く評価されています。両者に共通するのはスコッチタイプのウイスキーをベースに発展してきたものであること。そうした点からも、日本や台湾の人々のスコッチやシングルモルトに対する理解の深さが窺えますし、だからこそ日本でもこれだけザ・マッカランが愛されているのだと思います。
マッカラン シェリーオークシリーズは、主にヨーロピアンオークのシェリー樽で熟成されており、日本で販売される高級シングルモルトスコッチウイスキーの中で長年トップの地位を占めている――対して、ハイメさんが拠点とされている香港はどうでしょうか?
ハイメ 香港もとても魅力的な市場です。世界の富裕層が集まる香港のウイスキー市場は、量的な規模は小さいものの日本や台湾を凌駕する超プレステージ市場です。高価なウイスキーの人気は高く、特にザ・マッカランのような伝統とクラフトマンシップを備えたブランド力の高いウイスキーとの親和性はとても高いものがあると感じています。
また、香港にはサザビーズのような著名なオークションハウスもあり、特に高級ウイスキーの市場はとても活気づいています。また、韓国でも昨年頃から本格的なウイスキーブームが起こり、ソジュ(韓国焼酎)からウイスキーのハイボールに移行する人たちが増えています。
重要プロジェクト「ザ・マッカランハウス」世界第一弾は香港
――今年には香港で世界初のブランドの旗艦店となる「ザ・マッカランハウス」香港をオープンされました。
ハイメ 「ザ・マッカランハウス」は、今年で創業200周年を迎えたザ・マッカランの重要なプロジェクトです。コンセプトは、スコットランドのスペイサイドにあるザ・マッカラン蒸溜所を訪れたかのような感動を、各都市の皆さんに体感していただこうというもの。その第一弾として香港の中環(セントラル)地区で5月にオープンした「ザ・マッカランハウス」香港では、3フロア約557平米という広大な空間で、ザ・マッカランの世界観を体感していただけます。
ハウスの建築や空間デザインを手掛けたのは、ロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリーの拡張部分なども手掛けたジェイミー・フォバートらのチーム。ザ・マッカラン蒸留所に次ぐ膨大なコレクションが揃うリテールスペースをはじめ、各フロアは5つのセクションで構成され、ザ・マッカランの個性や精神性を表すディティールが各所にちりばめられています。
香港のアーティストたちとコラボレーションしたインスタレーション展示などもあり、バーやダイニングでは定番品から各年代のビンテージ、今年のアートバーゼル香港の展示でも話題となった「レッドコレクション」まで、50種類を超えるザ・マッカランの試飲なども楽しんでいただけます。
香港経済の中心である中環に位置し、歓楽街にも近い「ザ・マッカランハウス」香港。ザ・マッカランの世界観が体験できる――将来的に「ザ・マッカランハウス」を東京でもオープンされる予定はあるのですか?
ハイメ もちろん私たちはそれを望んでいます。現在、ザ・マッカランでは「トップ10キーシティ」戦略を掲げており、東京や香港、上海、ソウル、シンガポール、パリ、ロンドン、ニューヨーク、サンフランシスコ、LAという10都市で優先的な投資を行っています。中でも国際的な都市でありウイスキー文化も成熟している東京は、我々にとって香港やニューヨークとともにトップ3に位置付けられる重要な都市です。
私自身も日本を頻繁に訪れていますし、私が香港で出会う方々の中にも東京や大阪が大好きな人たちが多くいます。日本で出会うことができる真の職人技や細部へのこだわりなどは、ザ・マッカランが体感する価値と共通するもの。日本のバーでは他では見られない形でザ・マッカランが提供されていたり、ザ・マッカランの新たな価値を発見させてもらえる機会も多くあります。
例えば、日本初のイノベーションともいえるハイボールも台湾や香港でとても人気になっていますし、韓国のウイスキーブームもハイボール人気から火がついたもの。ハイボールはウイスキーという酒類カテゴリの成長を促進する、素晴らしいイノベーションだと思います。日本の東京などでは日々そうした新たな価値が生まれ、今も世界中から多くの人々が次なるトレンドを探すために東京に訪れています。
また、著名な日本人バーテンダーが香港で素晴らしいバーをオープンするなど、東京と香港の間でクロス・ファータリゼーションが進んでいることも実感しています。そんな日本で多くの方がザ・マッカランを愛してくださっていることをとても嬉しく思いますし、今後も日本への投資には力を入れていきたいと考えています。
ザ・マッカランの日本におけるナショナル・ブランドアンバサダーに就任したGaku氏。日本ではホスピタリティディレクターとして、ニューヨークでは飲食部門ディレクターなどでキャリアを重ねた。今後はブランドの伝道師として、ザ・マッカランの魅力を伝えていく「ザ・マッカラン1926」が4億1000万円を付けた、その背景
――日本市場への投資という点では、どのようなことを考えているのですか?
ハイメ 昨年には六本木ヒルズでダブルカスクシリーズの大々的なリローンチイベントを、そして今年7月には、ザ・リッツ・カールトン東京のザ・バーで200周年の幕開けとなるようなキックオフイベントも開催しました。
さらに11月8日から24日かけては、東京の原宿で「THE HEART OF THE SPIRIT TOKYO EXPERIENCE」を開催しました。こちらは、200年にわたるザ・マッカランのウイスキーづくりの歴史をバーチャルに体験していただける没入型のエキシビションで、ブランドとしては過去最大規模の展示となるもの。様々なプログラムや特別なカクテルも用意し、多くの方にお越しいただくことができました。
また、ザ・マッカランでは各都市でのブランドアンバサダーの配置を進めていますが、今年には日本初のナショナル・ブランドアンバサダーにGakuが就任しました。これから様々なイベントなどで皆さんに彼を紹介できることを楽しみにしていますし、今後もそうした日本への投資は続けていきます。そしていつかは、東京にも「ザ・マッカランハウス」のような店舗をオープンしたいというのが、私たちの希望です。
原宿駅からすぐのヨドバシJ6ビルで現在開催された「THE HEART OF THE SPIRIT TOKYO EXPERIENCE」――昨年には、ロンドンのオークションで「ザ・マッカラン1926」が218万7500ポンド(当時のレートで約4億1000万円)で落札され、大きな話題になりました。数あるウイスキーのなかでもザ・マッカランが価値を高め続けている背景には、どのような理由があるとお考えですか?
ハイメ ザ・マッカランは創造性や革新性、類まれなるクラフツマンシップを体現するブランドであり、200年にわたり素晴らしいウイスキーをつくり続けてきました。その象徴ともいえるものが、スペイサイドで最も小さな蒸留器での蒸留や、比類なき樽へのこだわりをはじめとする「シックスピラーズ(6つの柱)」です。
ザ・マッカランの品質やそうした揺るぎないアイデンティティは多くの方に知られており、だからこそ特別なウイスキーとしての価値を感じていただけるのではないかと思います。
また、ザ・マッカランはアートをはじめとする他分野とのコラボレーションやパートナーシップをとても大切にしてきました。現在では、ウイスキーとアートとのコラボレーションなどは珍しいものではありませんが、その始まりはザ・マッカランでした。過去にはヴァレリオ・アダミやピーター・ブレイクをはじめ、著名なアーティストとの数々のコラボレーションを行ってきました。さらには、世界的なガラスメーカーのラリックや自動車メーカーのベントレー、ラグジュアリーホテルなどとのパートナーシップも、我々にとっては重要です。
ウイスキー自体の品質の向上はもちろん、そうしたパートナーシップによってブランドの価値を高める努力をしてきたことも、現在のザ・マッカランの評価につながっているのではないでしょうか。
2018年5月に完成した新生マッカラン蒸溜所。自然との調和を目指し、消費エネルギーのほとんどを再生可能エネルギーで調達。ウイスキーの未来を思わせる新たな蒸留所でも、伝統の「シックスピラーズ(6つの柱)」を踏襲したウイスキー造りを行う エキシビションでは200周年を記念してリリースされた特別なボトルも展示された。左が、84年熟成のザ・マッカランと、新蒸留所で蒸留された5年熟成のザ・マッカランが含まれる「TIME:SPACE」(200本限定・日本未発売)。右の「TIME:SPACE Mastery」は、ザ・マッカランの卓越した原酒から14種類の樽を厳選し、複雑なレイヤーを実現したシングルモルト。日本では来年のリリースを予定新興蒸留所から「次なるザ・マッカランは生まれない」とは言えないが...
――ザ・マッカランとアートにはどのような親和性があると思いますか?
ハイメ 大麦や水、酵母といった自然の原料のみを使い、ナチュラルカラーで仕上げられるザ・マッカランを、私たちはアートそのものと考えています。ブレンダーは、シェリー樽での熟成を経た様々な原酒をブレンドし、香り高くバラエティ豊かな製品を何のトリックも使わずに生み出しています。
アーティストとコラボレーションした特別なボトルなどでは、そうして生み出されたザ・マッカランの芸術性や希少性、収集価値などが市場で評価され、時に希少なコレクションとなります。しかし、忘れないでいただきたいのは、ザ・マッカランのリリースの99パーセントは、「12年」「15年」「18年」といった定番製品。つまり、皆さんにどんどん飲んで楽しんでもらうためのウイスキーです。
主にヨーロピアンオークのシェリー樽で熟成されている「シェリーオークシリーズ」に対し、「ダブルカスクシリーズ」ではヨーロピアンオークとアメリカンオークの2種のシェリー樽をバランスよく使用。どちらもシェリー樽100パーセントだ――現在、世界でも数多くのウイスキー蒸留所が誕生しています。そうした蒸留所からザ・マッカランのような特別な価値を持つウイスキーが生まれる可能性について、ハイメさんはどのようにお考えですか?
ハイメ 私個人としては、良質なシェリー樽での熟成や天然のプロセスを重視したナチュラルカラーへのこだわりなど、ザ・マッカランのような高品質なウイスキーが多くの蒸留所でつくられることを願っています。
とはいえ、たとえば自動車の世界で新興の自動車メーカーがいくらベントレーやロールス・ロイスのようになりたいと言っても、なかなかそうはなれません。自動車の性能が素晴らしいことはもちろん、名門レースで輝かしい成績を収めたり、英国の王族たちの足となったり。そうしたブランドが立ち会ってきた歴史的な瞬間は決して再現することはできません。
それと同様に、ザ・マッカランにも決して再現もコピーもできない無形の歴史や価値があります。日本や世界の新興蒸留所から、次なるザ・マッカランが生まれることがないとは言えませんが、そこに至るにはとても困難で長い道のりがあることは間違いないと思います。
――最後に、日本のみなさんに向けてメッセージをいただけますか。
ハイメ 私たちが日本に大きな投資をできるのも、日本の多くの方々がザ・マッカランを愛してくださっているからです。今後も日本でのイベントなどを通して、日本の消費者の皆さんとの素晴らしい関係を築いていければと思っていますし、ぜひ「ザ・マッカランハウス」香港にも足を運んでいただけると嬉しいです。
ザ・マッカランだけでなく、最近では世界の主要なラグジュアリーブランドも香港での拠点拡張を進めています。香港に来てもらえればきっと、そうした新たな成長のステージに入った都市の魅力も感じていただけると思いますよ。
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