BTSはメンバーの大部分が兵役中で活動を休止しているが、変わらぬ人気を誇る KM STUDIO

<北朝鮮との緊張を抱えながらも文化産業を大きく発展させた原動力とは──柳仁村文化体育観光相が韓流カルチャー成功の背景と今度の展望を語る>

1950年に勃発した朝鮮戦争が、正式には終結していない韓国。53年に休戦協定が結ばれたものの、それから70年たった今も、北朝鮮との分断と対立は続いている。そんな韓国が、世界のエンターテインメント界を席巻するようになって久しい。

韓流として知られるこの現象は、まず、1990年代後半に東アジアで広がった。当時の韓国は、軍事政権による開発独裁から民主化を遂げ、アジア通貨危機による経済の混乱から立ち直り、文化面の爆発的な成長が起きてた。

あれから25年余り。今や立派な民主主義国となった韓国は、優れた音楽やドラマ、映画を次々と生み出し、世界中のお茶の間で親しまれるまでになった。

KポップグループのBTS(防弾少年団)は欧米やアフリカの若者も熱狂させ、ドラマ『イカゲーム』は独特のストーリーで視聴者の心をつかみ、映画『パラサイト半地下の家族』は米アカデミー賞で、初めて作品賞を受賞した外国語映画となった。


だが、世界に誇るソフトパワー成長の陰には、いつも北朝鮮の核の脅威がちらついていた。「戦争は終わっていない。停戦状態にあるだけだ」と、韓国の柳仁村(ユ・インチョン)文化体育観光相は語る。

柳はこの6月、韓国政府の総合文化芸術スペース「ニューヨーク・コリアセンター」がマンハッタンにオープンしたのを機に訪米した。


「『それなら(韓国は)危険な場所なのか』と聞きたくなるかもしれない」と柳は続けた。「緊張を常に意識しなければならないのは事実だ」。柳自身、かつては俳優として活躍していた。「だが、アーティストたちは、その環境を乗り越えて、自らの創造性を養う糧にしている」

実際、休戦協定により軍事境界線を挟むように設置されたDMZ(非武装地帯)は今、韓国で最も人気の観光地の1つになっている。韓国側にはレストランや娯楽施設があるほか、毎年、平和をテーマにした映画祭さえ開かれている。

「核問題などのために、最近(北朝鮮との間で)緊張が高まっているのは確かだが、観光客がそれを肌身に感じることはないだろう」と柳は言う。「むしろ、ここ数年観光客は増えている」

さらに柳は、「アートの分野でも同じだ」と語る。「分断を乗り越えるために、多くのことが試みられた結果、分断をものともしない文化が生まれてきた」

確かに、朝鮮半島の分断をテーマにした韓国の映画やドラマは少なくない。

2000年公開の映画『JSA』は国内外の賞を受賞したし、北朝鮮でクーデターが起きる物語を描いた17年の映画『鋼鉄の雨』は大きな話題を呼んだ。


19年にネットフリックスで公開された恋愛ドラマ『愛の不時着』は、中国、日本、アメリカなど外国でも圧倒的な数の視聴者を獲得して話題になった。

外国と自国の文化を融合


スポーツの分野でも、韓国は18年の平昌冬季五輪を成功させている。開会式では、韓国と北朝鮮の選手たちが朝鮮半島をかたどった「統一旗」を掲げて合同入場を果たし、野心的な和平交渉の基礎となった。

近年、再び朝鮮半島の緊張が高まるなか、韓国の活動家らは北朝鮮を内側から揺さぶるべく、Kポップを大量に保存したUSBドライブを風船に入れて、北朝鮮に向けて飛ばしている。

だが、現代のほとんどの韓国人にとって、北朝鮮との対立は最も差し迫った懸念ではなくなりつつあるし、国家としても個人としても、成功を妨げる最大の要因ではなくなった。平和的な統一の希望がほぼ消えつつあるなかでは、なおさらだ。

韓国の文化には極めて特徴的な側面があり、それが中国や日本といった、韓国よりもはるかに大きな近隣諸国(とそのエンタメ業界)と競争する上で大きな武器になってきたと、柳は考えている。なにしろ韓国の人口は5200万人だが、中国は14億人、日本も1億2500万人だ。

「韓国はアーティストについて多様な考え方があり、アートの多様性を認めている」と柳は言う。「成功したフォーマットを繰り返すのではなく、常に変化している。それが世界のエンタメ業界とは異なる点であり、ダイナミクスをもたらしている」

韓国以外のアジア諸国も世界のエンタメ業界に進出を図っているが、韓国は独特の方法で世界の影響を取り入れてきたと、柳は指摘する。

「韓国の文化産業の最大かつ最もユニークな点の1つは、外国文化の影響を取り入れて、少しひねりを加えるのではなく、自国の文化と混ぜ合わせ、醸成させ、新しいものに作り変えることだ」

昔から優れた発酵食品や酒を生み出し、今は韓流が世界を席巻しているように、韓国は外国のさまざまな材料を吸収して、さらに口当たりの良いモノを生み出してきた。

西洋生まれの楽器で韓国の伝統音楽を演奏する音楽家もいる。柳自身、伝統的な韓服にスニーカーを合わせてインタビューにやって来た。

「韓国の文化は古い伝統的な要素と現代的な要素が見事にかみ合っている。つまり、現在の芸術は伝統に基づいているが、伝統は現代的な要素と融合しており、私たちはその新しい表現方法を見いだしている」

葛藤も変化もエネルギーに

韓国のエンタメが世界中の何十億という人々に前例がないほど広まっていることは、19世紀に西洋人の間で「隠者の王国」と呼ばれた孤立主義的な王朝の遺産を持つこの国が、途方もなく世界に露出しているということでもある。

そのプロセスは、最新テクノロジーに執着する国民性によって加速している。韓国はインターネット利用者、スマートフォン所有者、SNS利用者の割合が世界でもトップレベルに高い。

韓国の勝利の戦略において伝統が重要な要素であるなら、外部の文化へのアクセスが氾濫することはリスクにもなり得る。

「韓国では、特に若い世代を中心に、外国の文化を高く評価している」と、柳は言う。

「ジャズ、コカ・コーラ、ハリウッド、ビデオゲームなどのアメリカ文化に引かれる人が多い。そうしたコンテンツや異文化は相互に交流し、影響を与え合っている。そのように影響を与え、影響を受けている文化もまた、進化して、変化していく。韓国では日常の生活様式も大きく変化してきた」

一方で変わらないものもあると、柳は確信している。

「孝や義など、基本的な文化的概念の一部は変わらない。韓国は家族中心の社会だからだ。親は子供のために犠牲を払うものとされ、だから子供は親に孝行する。つまり、文化の根底にある流れは同じだ。それをさまざまな方法で表現するようになっただけだ。韓国が伝統文化を失うのではないか、弱めるのではないかと心配する人もいるだろう。しかし、そういう不安はいつの時代にもあるものだ。人々はいつも心配して、それに慣れ、順応しながら文化を守ってきた」

韓国文化は現代の発展や異文化交流の目まぐるしいスピードに合わせて進化しているが、韓国社会の中では大きな溝が生じている。重要な問題をめぐり、男女間、世代間、保守派や進歩派、その他のグループなどの間で亀裂が広がっているのだ。

しかし、これについても柳は、この「熱い」国が不利な状況を取り込んで、より広い意味での前進につなげる機会だと考える。

外から見れば常に何かしら問題を抱えているかもしれないものの、葛藤を経験しながら、その影響を受けて落ち込むのではなく、立ち上がり、発展と進歩の足がかりにするのだという。

「韓国ほど多くの変化を経験してきた国はほとんどない」と、柳は指摘する。冷戦の勃発は朝鮮半島を分断しただけでなく、100万人以上の命を奪った壊滅的な戦争をもたらし、ソウルを含む多くの都市を破壊した。

現在の活気あふれる摩天楼の姿は、当時のソウルからは想像もつかない。今や世界で最も安全な都市の1つとして頻繁にランキングされてもいる。

北朝鮮のミサイルが上空を飛ぼうが、街頭で抗議デモが起ころうが「人々の生活は続いている」と、柳は言う。

「実際、この国は数え切れないほど衝突を経験しながら、国として発展してきた。それが韓国文化の根源的な力であり、原動力だ」

グローバル文化の主導権を

しばしば情熱的に意見をぶつけ合う自由と熱意は、柳が韓国文化のダイナミズムと考えるものの基盤になっている。不安定にも混乱しているようにも見えるかもしれないが、だからこそこの国と文化は進歩できるのだという。

現在は、韓国は世界から注目されている。しかし、明日はどうなるか、柳にもほとんど分からない。

このような不確実性に直面して、韓流を確実に広め続けるために、柳は将来への準備に特化したチームを編成した。

「こうした変化に備えるための委員会を作っているが、変化はあまりに速く、未来を予測する方法すら分からない。それでも私たちは政策立案者として、クリエーターが思い描いていることを実現できるような舞台を提供したい」

このイニシアチブは政府と民間部門から支援を受けており、科学技術部門が並行して進めている取り組みを手本にしている。

しかし、外部のさまざまな影響を受け入れて洗練させようという韓国の熱意に沿うように、国としてエンタメのポートフォリオを多様化させ、国内外の素材を融合させた新しい種類のアートを生み出すことにも力を入れていると、柳は強調する。

「私たちは既に、韓国文化を世界に発信することだけにこだわってはいない。この新しいグローバルな文化的進歩において、主導的な立場を取りたい。文化のるつぼの中からうまくいっているものを参考にして、私たちの創造性を生かしながら、生み出したものを世界に提供することができる」

北朝鮮に向けて爆音でK-POPを流す様子

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