NHKのラジオ国際放送などで、中国人の外部スタッフが沖縄県の尖閣諸島を「中国の領土」と中国語のニュースで伝えた問題で、NHKの稲葉延雄会長は22日、自民党本部で「(同局が自ら定める)国際番組基準に抵触する極めて深刻な事態と受け止めていて、深くおわび申し上げる」と報道陣に謝罪した。また、NHKは、このスタッフが英語で「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな」などと発言をしたことを明らかにした。

 稲葉会長らNHK幹部はこの日、放送政策などを議論する自民党の情報通信戦略調査会に出席。出席した議員によると、稲葉会長からは信頼を損ねたことなどについて謝罪があった。NHKは、このスタッフと業務委託契約を結んでいた関連団体を通じて本人に厳重に抗議し、21日付で契約を解除したと説明。今後、損害賠償請求を行い、刑事告訴を検討をする。

 再発防止策として、生放送だったことから、中国語のニュースは20日から事前収録を実施し、他の言語も今月中に事前収録する。AI音声の早期導入を検討し、副会長をトップとする原因究明やガバナンス強化などを行う体制もつくるという。

 また、NHKはこの日、このスタッフが渋谷の放送センターでのラジオ国際放送などで、中国語で、「魚釣島と付属の島は古来から中国の領土です。NHKの歴史修正主義とプロフェッショナルではない業務に抗議します」と述べ、英語で「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」と発言をしたことを明らかにした。発言の全容の公表が遅れた理由について、朝日新聞の取材に「結果的に放送を通じて、主張を拡散させたいという、外部スタッフの目的を達成させてしまうことになりかねないと考え、対応した」と説明。しかし、その後で外部スタッフに対して、損害賠償を請求することになるなど、状況が変わったことを踏まえ、公表することにしたという。

 NHKの発表によると、中国人の外部スタッフは40代男性。19日午後にラジオ国際放送などでの生放送で、靖国神社の石柱に落書きがあったニュース原稿を中国語で読む中、尖閣諸島について「中国の領土である」と述べるなど20秒ほど原稿にはない発言をしたという。

 NHKの国際放送は、政府見解などを海外に情報発信するため、国の交付金が出されていて、総務大臣がNHKに対して、放送事項などを指定して国際放送を行うよう要請できることも定められている。NHKは「放送の自由と番組編集の自由を最優先に、自主的な編集のもとで放送を行っている」としている。だが、ある同局関係者は「今回の件は、放送体制に問題があったが、番組内容への政治の介入がたやすくならないか、心配だ」と話す。(宮田裕介)

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