長崎県対馬市の観音寺から盗まれて韓国に持ち込まれた仏像を巡り、韓国最高裁が同寺に所有権を認める判決を確定させて26日で半年を迎える。しかし、仏像は同寺に返還されないままだ。同寺の前住職、田中節孝さんは「どこからも音沙汰がない。韓国政府は単純な窃盗品なのに返さない。日本政府にも取り返す意欲が見えない」と落胆する。
仏像は、長崎県の指定有形文化財「観世音菩薩坐像」。2012年10月、8人の韓国人窃盗団が観音寺の本堂から盗み出した。この窃盗団は他の神社からも仏像を盗むなど、当時対馬では韓国人窃盗団による仏像や仏画の盗難被害が相次いでいた。
韓国警察は13年1月、韓国国内で窃盗団を逮捕し、仏像を回収したが、事態は思わぬ方向に展開する。韓国瑞山の浮石寺(プソクサ)が仏像は数百年前に倭寇に略奪されたものとの主張を展開し、その後、太田(テジョン)地裁は韓国政府に浮石寺への引き渡しを命じたのだ。
韓国政府も地裁判決について控訴し、太田高裁は23年2月、地裁判決を取り消した。韓国最高裁も昨年10月26日、浮石寺の上告を棄却、観音寺に所有権を認める太田高裁判決を確定させた。
ようやく仏像が対馬に戻る─。この11年、仏像の返還を願いながら、その姿を見ることなく世を去った島民もいる。田中さんにもお祝いの言葉が寄せられた。田中さんは「そうはいっても返ってくる確信はない」と慎重論を唱えていたが、この見立て通りの状況になっている。
浮石寺は仏像について日本に略奪されたと主張するが、観音寺は朝鮮半島で仏像破壊が繰り返された李氏朝鮮時代、被害を防ぐために対馬に持ち込まれたと説明する。
そもそも、日韓は国連教育科学文化機関(ユネスコ)が盗難文化財の原則返還を定める文化財不法輸出入等禁止条約をそろって批准している。対馬市議会も今年3月、政府に対し、仏像の早期返還を韓国政府に働きかけることを求める意見書を採択した。
田中さんは「干支が一巡して元に戻ったような感じだ」と戸惑いつつ韓国政府の対応に期待している。
「時空を超えた怨念のような呪縛に縛られるような国ではないと信じたい」(奥原慎平)
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