今年はアメリカでセミの大量発生が予測されています(写真:rik/PIXTA)数学を使って世の中の仕組みを知ることで、物事を見る視野が広がります。現役東大生の永田耕作さんが数学の魅力について解説する連載『東大式「新・教養としての数学」』。今回は「素数」について解説します。

セミの大量発生は重大な問題

今年、アメリカで大量のセミが発生すると予想されていることを皆さんは知っていますか? アメリカのニューヨーク・タイムズは、今年の4~6月に、全米の16州にわたって1兆匹ものセミが発生すると報じており、その規模は実に221年ぶりといわれています。

このセミの大量発生は皆さんが思う以上に重大な問題です。セミによって果実や葉が食い荒らされたり、停電が発生したりするなど、その地域の経済に大きな影響を与えてしまうのです。

「1兆匹のセミ」と急に言われても、どのくらいの量なのか、そしてその事態の収束がどれほど大変なのか、あまり見当がつかないでしょう。ここで、1兆匹のセミという数字がどれくらいかまず説明します。

1兆(1,000,000,000,000)は0が12個つく数字です。そして、1匹のセミの体長がおおよそ2.5~3cmくらいであるため、1兆匹のセミを縦に並べるとその長さは2500万~3000万キロになります。地球の周の長さがおよそ4万キロ、地球と月の間の距離がおよそ38万キロであることを考えると、ものすごい数字であることがわかるでしょう。

このように特定の年、時期に大量発生するセミのことを、「周期ゼミ」と言います。アメリカを中心に、さまざまな種類の周期ゼミが存在しており、その集合体ごとに発生年度、そして発生周期が異なります。その年度ごとに、「ブルード1」「ブルード2」というように通し番号をつけてセミの集団を区別しているのです。

この周期ゼミは、寿命のほとんどを地中で幼虫として過ごし、特定の周期で一斉に羽化して地上に現れます。地上に現れた後は数日で寿命を迎えてしまうため、代が移り変わっても常に一定の周期でまた発生するのです。

ちなみに日本では、セミの寿命は5~10年ほどと言われていますが、アメリカのセミは15年以上のものもあり、アメリカのセミのほうが寿命は長いのです。

「13年周期」と「17年周期」のセミが同時発生

今年大量発生することが予測されている周期ゼミは、発生周期が17年の「17年ゼミ(ブルード13)」と発生周期が13年の「13年ゼミ(ブルード19)」です。この2種類のセミが同時に発生するのは、「13×17=221」であるため実に221年ぶり、つまり1803年以来であることから、近代で一番のセミの大量発生であると騒がれているのです。

実は、現在この周期ゼミは、今年同時に発生する13年周期のものと、17年周期のもの以外ほぼ絶滅してしまったといわれています。元々、周期ゼミの周期は12~18年と幅広く存在していましたが、この数百年の間に12年周期や14年周期のセミなどはその多くが絶滅してしまい、「13年」「17年」の2種類が残ったのです。

いったいなぜなのか。実はここに、「数学」の謎、そして面白さが隠れているのです。

「1803年から2024年までの間に、何回ほかの他の周期ゼミと羽化のタイミングが被ったか」を数えてみました。

12年周期:17回13年周期:4回14年周期:6回15年周期:7回16年周期:7回17年周期:1回18年周期:10回

12年周期のセミは221年間で17回もあるのに対し、17年周期のセミはたったの1回です。13年周期のセミも4回と、他の周期ゼミよりもその値が小さいことがわかります。

冒頭でも記したとおり、周期ゼミは集団で仲間を作っています。つまり、別の集団と同時に地上に現れると、お互いを攻撃し合い、片方が絶滅したり、はたまた両方とも絶滅したりしてしまうことがあるのです。

ゆえに、他の周期ゼミと羽化のタイミングがあまり被らない13年周期と17年周期の2種類のセミが、現代まで絶滅せずに残っているのです。

13と17の共通点は「素数」

では、なぜ「13」と「17」なのか。その理由は、12~18の中で「素数」である数字がこの2つだけであるからです。

素数の定義は、「1とその数以外の約数を持たない」ことです。小さい順に並べると、「2、3、5、7、11、13、17……」となります。

例えば、12は2でも3でも4でも6でも割り切ることができますが、13はこのどの数字で割っても余りが出てしまいます。この「約数を持たない」という性質が、周期ゼミの生き残りにつながっているのです。

12年周期のセミと14年周期のセミは、12と14の最小公倍数である84年に1度周期が被ります。ましてや、12年周期と18年周期であれば36年に1度、つまり出現する3回に1回は被ることになるのです。

これに比べて、17年周期のセミは、12年周期のセミと204年に1度しか羽化のタイミングが被りません。18年周期のセミとはなんと306年も被らないのです。

このように計算してみると、他の種のセミに邪魔されずに生きられるのが一目瞭然でしょう。

さまざまな研究が行われている素数

「素数」は多くの数学者が注目する分野であり、さまざまな研究が行われています。

有名なもので、「ゴールドバッハ予想」という法則があります。これは、「4以上の偶数はすべて、2つの素数の足し算で表せる」という法則です。この法則は、数学者クリスティアン・ゴールドバッハによって300年ほど前に提唱されたものですが、いまだにこの予想は証明されていません。素数についての研究は、まだ続けられているのです。

このように、数学マニアのもののように見える「素数」ですが、今回紹介したセミの例のように、実はこんな身近なところにもその仕組みが活用されています。

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