(写真:筆者撮影)

4月8日から東京都などで「日本型ライドシェア」が解禁され、約1カ月が過ぎた。

東京に神奈川や名古屋、京都市域を含む先行エリアではすでに90社(4月26日時点)の運行が行われており、解禁前に議論の対象となった安全性の面では、今のところ大きな事故が起きたという声は聞こえてこない。

その理由はシンプルで、まだそれほど多くの人が乗車を経験していないということがあるように感じる。本稿では正確に把握することが困難な日本型ライドシェアの実情を、数字や事業者、ドライバーの視点から追っていく。

ライドシェア利用を試みたが…

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現在のライドシェアは、配車アプリである「GO」や「Uber」「S・RIDE」「DiDi」の4つのアプリ内から、国交省から定められた時間帯にのみ乗車できるというものだ。

この内「Uber」を除くアプリでは、ライドシェア車両を指定することはできず、その「Uber」も稼働台数は限定的とされている。つまり乗客目線でいうなら、意図したものではなく偶然ライドシェアに乗車したという人が大半のはずだ。

ちなみに都内に住む筆者もこの1カ月間アプリを利用して何度も乗車を試みたが、一度もライドシェアドライバーに当たったことはない。政府の規制改革委員会が業界団体などに行ったヒアリングによれば、2週間で約2400組にサービスを提供されたというが、乗車確率はそれほど高くないともいえるだろう。

筆者は昨年9月頃から、業界団体やタクシー会社、政界と多方面からライドシェアへの取材を重ねてきた。そのうえで感じるのは、きわめて異例とも言えるペースで日本型ライドシェアの枠組みが決まっていったということだ。

指針も日々変わっていき、ほとんどの事業者が解禁の1週間前でも慌てふためいており、現場は混乱していた。ただし、これはタクシー事業者に瑕疵があるというより、政府を含め制度設計を突貫工事で進めてきたゆえに起きている現象でもある。

裏を返せば関係者たちの危機感が募り、移動の足を確保するという課題の早期解決へと向けた努力によるものだが、そのスピード感ゆえに粗さも目立ち、まだ手探りの段階だ。

あくまでタクシーの供給不足を補うことが目的

では、今稼働する日本型ライドシェアのポイントは何なのか。これはひとえに「タクシーの供給不足を補うことを目的としている」ということだ。「ライドシェアを指定して乗れない」という一部からの声も上がっていたが、これは前提として認識が間違っていることは記しておきたい。

不安視されていた安全・安心の担保をタクシー事業者が行うことを目的に、タクシー会社主導で管理・運行や研修、採用活動などを実施している。例外なくタクシー事業者と同等の料金体系での利用となっており、この点が、主にダイナミックプライシングが適応されている海外のライドシェアとの違いでもある。日本のライドシェアは、「タクシー会社で働く自家用車のパートタイマー」という表現が、最も現状に近いという気もする。

稼働時間は、国交省が定義する供給不足が発生しているという時間帯に限られている。その時間と不足台数は東京特別区・武三地区で、月~金曜日の7時~10時台が1780台。金・土曜日の16時~19時台が1100台。土曜日の0時~4時台が2540台。日曜日の10時~13時台が270台だ(数字や時間は4月8日の開始時点)。

しかし、ドライバーは週20時間という限定された稼働時間の中で毎日働くわけでもないため、国交省が定める数字を確保するには、各時間でこの倍近い人員が必要となるはずだ。

4月15日の時点で登録ドライバーが東京では389人だったことを考慮すれば、とても数カ月間で到達可能な数字とは思えず、いずれにしてもまだまだドライバーは圧倒的に足りていない計算となる。東京でもこういった状況であることから、他の地方都市では、採用に関してはより厳しい状況であることは想像に難しくない。

神奈川県に本社を置き、都内でもタクシー事業を展開する三和交通の広報担当者によれば、ライドシェアの応募者280人に対してグループ全体で100人の採用に至っている(現在の数字は4月15日時点)。担当者は「問題点も出てくるとは思いますが、やりながら改善していくことが大切で、制度的には世の中にとっていいことだと思います」と明かした。

業界大手の日本交通も1万件超の応募が来たという。総じてタクシー事業者側から聞こえてくるのは、「想定以上に応募者の数は多かった」という意見だ。ただし、条件を聞いたうえでの辞退者や不採用になっている割合も非常に多く、研修期間中などでまだ待機組が残されていることも明記しておく。

では、どんな層がドライバーとして働いているのか。複数のタクシー事業者の話によれば、「大半が本業で車を使用している方。特に個人事業主の多さが目立つ」という。そのうち9割が男性で、30~50代が占める割合が多い。原則タクシー会社とドライバーの間では、3カ月程度のパートタイムや業務委託契約を結ぶ。

気になる所得水準は?

所得については社により多少の違いはあるが、概ね時給換算で1300~1500円前後に加えて、1時間あたりの売り上げ(3000円超過分がライン)に応じて成果給が支払われる。都内では「約200人のドライバーが時給1700円(手取り)の仕事を得られた」との報告もあり、ボリュームゾーンとなる収入はこの辺りになりそうだ。

実際に参画したドライバーの声に耳を傾けてみよう。介護タクシーで働いてきた40代女性は「隙間時間に働きたかった」としたうえで、こう話した。

「本職が稼働しない時間に働けるライドシェアに挑戦してみたいと思いました。研修や座学の実習が思っていたよりも長くて、安全のためには必要なことだと感じました」

販売業を営む個人事業主で、複数の副業を同時に掛け持ちしている、という大木さん(仮名・40代男性)がこう明かす。

「メインの仕事が閑散期や暇な時間があるため、これまでも空いた時間に別業種で送迎のドライバーとして働いてきましたが、昨今のタクシーバブルが気になり応募したんです。複数ある副業の選択肢の中で、もっとも効率がよいものを探していた。その中でとりあえずライドシェアを試してみたという感じですね。1日4時間程度の週1勤務なので、本業への支障はありません。稼ぎも思っていたよりもいい。ただ、もう少し稼げるように勤務時間の制限は緩和してほしいですね」

仕事としてのメリットは?

「運転に慣れた人であれば特に大きなストレスはないのでは」と大木さんは言う。ただし、ドライバーが今後増え続けるかと尋ねると、「その点では疑問も感じている」とも続けた。

「本業の就労時間が40時間を超えるとライドシェアで働けないので、前提として会社員の副業としては難しい。週20時間の勤務時間の制限、“短すぎる”営業時間が撤廃されない限りは、ドライバーが大幅に増えることは考えにくいです。最も稼げる金曜日の深夜帯を中心に今後も働いていく予定ですが、時間に抵抗がない人であれば客単価が見込めるこの時間に集中するでしょう。私個人の希望としては、深夜帯でやるならば時給5000円、日給1万5000円の収入が最低限の続けるラインかな、とも感じています」

日本型ライドシェアの出発式には、河野太郎規制改革担当大臣や斉藤鉄夫国交大臣ら政治家も顔をみせた。その中で河野大臣は「順次アジャイルしていくことが大切だ」と強調し、斉藤大臣も「全国でできるだけ早くスタートさせたい」と意気込んだ。5月からは大阪市や札幌市、福岡市などの大都市圏でも解禁され、さらに新たな地域が参画することも予測される。

今後はライドシェアの全面解禁を行うかどうか、日本型ライドシェアの経過を受け、6月に議論が本格化する。しかし、今の状態では正確な状況判断が行えるだけのサンプルやデータが足りていない現実があることも、取材を通して見えてきた。

そして長期的な移動サービスとして根付かせるには、ドライバーの確保という喫緊の課題に加え、彼らが定着するだけの材料も必要となってくる。

日本型ライドシェア出発式の様子(筆者撮影)

全面解禁に向けた課題

これは全面解禁になったとて、同様のことがいえる。当然だが、同時に地域ごとに他の公共交通との兼ね合いも見極める必要があり、国交省や規制改革推進会議の舵取りには注視していきたい。それでもここ2カ月ですべてを判断するのはあまりに性急であり、どうしても精度は低くなるとも感じてしまうのだ。

「結局中途半端な形でライドシェアを進めるのは、誰にとっても得にならないから」

事業者からも政界からも、去年さんざん聞かされたこの言葉が今も強く印象に残っている。そして、その懸念が現実に起こりえる可能性も感じるのだ。日本型ライドシェアの正しい評価を下すには、まだ相応の時間を要しそうである。

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