子育てというのはとても難しいものです。正解はありませんし、Aくんに対しては正しかった子育てが、Bくんに当てはまるわけでもありません。
さらに最近は核家族化が進み、1人っ子の割合も増えてきています。兄弟がいないなかで、どの育て方がいいのか、迷うこともあるでしょう。実際に「この育て方は正しいのでしょうか」と多くの親御さんたちから質問を受けます。
私たちは、東大生100人へのアンケート結果をもとにまとめた『「自分から勉強する子」の家庭の習慣』という本を作りました。今回は、その本を編纂している中で見つけた、東大生の親御さんの育て方の指針となっている考え方や、東大生の親御さんたちが共感し、実践している内容が書かれた3冊を紹介したいと思います。
東大生の親は「子育ての不正解」を理解している
1 「やってはいけない」子育て
『「やってはいけない」子育て』(日本能率協会マネジメントセンター)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします1冊目は、『「やってはいけない」子育て』です。東大生の親御さんたちに話を聞くと、「こういう子育てがいい」というような理想をはじめから持っていたわけでもなく、「この先生のやり方がいいと感じたので、それを真似た」と話す親御さんもあまりいない印象でした。
つまり、子育ての「正解」をわかっていて、行動していたわけではなかったようです。
しかし逆に、「こういうことはしないようにした」という「不正解」はわかっていたという人は、とても多い印象を受けました。そういう意味で、子育ては、「正解はないけれど、不正解はあるもの」なのかもしれません。
この本では、そんな「不正解」を教えてくれます。子どもの非認知能力について研究をしている岡山大学の中山芳一先生が上梓した書籍ですが、タイトルのとおり、中山先生の専門の観点から「やってはいけないこと」が、どの家庭でもよくあるような具体的な事例を引用しながら、説明されており、とてもわかりやすい内容になっています。
例えば、やってはいけない子育ての一例として、「子どもに対して『あなたの好きにしなさい』と言っている割には、子どもの好きにさせてあげられない」ということが指摘されています。
どの家庭でもよくある話ですよね。「何かやりたいことがあるなら、積極的にやりなさい」という割には、実際に「こうしたい」と言うと、「そんなのはダメ」と言ってしまうことはありますよね。
こうした事例を、非認知能力育成の観点から、アカデミックに説明してくれます。先ほどの例は「ダブルバインド」と呼ばれ、矛盾したことを押し付けてしまうことで、子どもにストレスを与えてしまうのだそうです。
このように”やってはいけないこと”を回避するための方法が詳しく、具体的に書いてあるため、とても参考になります。ぜひみなさんも、読んでみてください。
目立つことを嫌う子どもたち
2 先生、どうか皆の前でほめないで下さい
『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』(東洋経済新報社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします2冊目は「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」です。東大生の親御さんに話を聞くと、どの親御さんも、子どもを取り巻く今の環境について深く理解していました。
例えば、とても便利で何時間でも遊んでいられるうえに、さまざまな情報を摂取できるスマホが手元にある現代の子どもたちの状況は、昔とは大きく異なります。このことにどれだけ親が自覚的になり、子どもたちと接するのかは、大きな課題であり、日々の生活で意識したほうがいいことでもあります。
この本は、今の子どもたちを取り巻く環境が、どのように変化していて、子どもたちの心理状況はどうなっているのかを、非常に読みやすいタッチで教えてくれる良書です。
この本を書いているのは教育学の先生ではなく、イノベーション論を研究している金間大介先生です。教育学的な視点ではなく、若者のモチベーションや、社会の変化と今の子どもたちとの関係について、深い考察がされており、読んだ人にとって誰でも新しい発見がある1冊だと思います。
例えば、SNSが発達している今、子どもたちは、たとえ肯定的なことであっても、とにかく目立つことを嫌うようになったと書かれています。
本のタイトルのように「皆の前でほめないでほしい」という状態にまでなってしまっているのです。そんな状況は、どうして生まれてしまったのか、どうすればその状態を打破できるのか。子どもはどうして「良い子」として振る舞おうとしてしまうのか……。
これらのことには、1つの明確な答えがあるわけではありません。だからこそ、読む人、1人ひとりに現代の若者たちについて多くのことを考えさせてくれる1冊です。もし子どもとの距離を感じることがあったら、ぜひ読んでもらいたい本です。
伸びる子どもに育てるにはどうするか
3 ドラゴン桜で学ぶ 伸びる子供の育て方
『ドラゴン桜で学ぶ 伸びる子供の育て方』(星海社新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします3冊目は、『伸びる子供の育て方』です。この本は、小学生から高校卒業までの長い期間、東大志望の生徒を含めた多くの子どもたちを指導してきたベテラン講師である川本雄介さんが、「伸びる子ども」の特徴と、その伸ばし方について教えてくれる本です。
小学生のみを指導をしている先生や、高校生だけを指導している先生は多いと思いますが、小学校から高校までの長い期間、生徒の指導を行っているというのはまれであり、だからこそ川本先生が語る話には説得力があります。
子育てに正解はありませんが、東大生の親御さんに話を聞くと、驚くほど「褒め上手」であることに気付かされます。
子どものいいところを見つけて、褒めて、伸ばしていく。子育ての基本とも言うべきことが、きちんと徹底されている場合が多いです。そのためには、「いいところを見つける目」が必要になります。
その目を養うための本が、この1冊です。この本では、「一見否定されがちだけれども、実は勉強に対して、プラスな要因」を教えてくれます。
例えば、「この問題わかる?」と聞かれて、「わかる!」と答える子よりも、「わからない!」と答える子のほうが、成績は上がりやすい、と書かれています。
知ったかぶりではなく、自分で納得するまで考えたいと思い、簡単に「わかった」と言わない子のほうが、成績が上がりやすい。だから本来は、「わからない」と答えた生徒のほうを褒めたほうがよいのです。
しかし実際に子どもに勉強を教えていると、「わかった!」と聞き分けのいい子のほうが、成績が伸びるのではと思ってしまいますよね。子どものいいところを、大人が潰してしまっているかもしれない、そんな可能性について、この本では語られています。
独り言が多い子はアウトプットが多いため、成績が上がりやすい。しっかり言い訳ができる子は、次は失敗しないための思考ができているため、成長が早い。こうした、われわれの常識とは逆の考え方を教えてくれるのです。この本を読んで、ぜひみなさんも「褒め上手」になってもらえればと思います。
正解がない分、頭を悩ませている
いかがでしたか? 子育てに正解はないので、親御さんたちは悩むことも多いと思います。でも同時に、悩むということはとても大事なことだと思います。
東大生の親御さんたちは、「これが正解だ」というものを持っていない分、頭を悩ませている時間が長かったそうです。そして悩んだ分だけ、子どものことを思った行動をすることができる。これらの本を読んでも、「答え」が書いてあるわけではありませんが、ぜひ、読んで「悩んで」いただければ幸いです。
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