今回は「単位」について取り上げ、誰でも簡単に数字センスが身につく意外なコツを紹介します(写真:cba/PIXTA)「数字に弱く、論理的に考えられない」「何が言いたいのかわからないと言われてしまう」「魅力的なプレゼンができない」これらすべての悩みを解決し、2万人の「どんな時でも成果を出せるビジネスパーソン」を育てた実績を持つビジネス数学の第一人者、深沢真太郎氏が、生産性・評価・信頼のすべてを最短距離で爆増させる技術を徹底的に解説した、深沢氏の集大成とも言える書籍、『「数学的」な仕事術大全』を上梓した。今回は「単位」について取り上げ、誰でも簡単に数字センスが身につく意外なコツを紹介する。

並んだ「0」を数える謎の時間

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仕事柄、ビジネスパーソンに数字で考え、数字でコミュニケーションするためのスキルを研修などで指導します。

これまで延べ2万人以上に指導してきましたが、これだけの人数とお会いし研修の現場で様子を観察していると、いろんな“実態”を目の当たりにします。

ある企業の研修において、グループワークにて市場規模の概算をする場面がありました。参加者はホワイトボードにたくさんの数字を書き込みながら議論を進めています。

あるグループのホワイトボードを見ると、次のような記載がされていました。

127,000,000,000円4,000,000,000円----------------------------131,000,000,000円

おそらくこのグループのメンバーは「1270億円と40億円を加えて、1310億円になる」という計算をしたかったものと考えられます。

しかし、この計算をするのにこれほど「0」を書き並べる必要があるでしょうか。次のような計算だけで済む話のはずです。

1270+40=1310(億円)

じつはこのような例は決して珍しいことではありません。入社1年目のビジネスパーソンはほぼ半数が、さらに驚くことに、ベテラン社員でも「0」を一生懸命に書き並べ、「いちじゅうひゃくせんまん……」と桁を数えながら計算するのです。

この例に代表されるように、小さい桁の数字を扱った計算はできても、桁の大きい数の計算になると途端にパフォーマンスが落ちるケースが多々見られます。

しかし、ビジネスパーソンはキャリアを積めば積むほど、大きな桁の数字を扱うようになります。入社1年目が仕事で扱う金額と、経営トップが仕事で扱う金額は桁が違います。

この事実に焦点を当てるだけでも、大きな桁の数字に慣れ親しんでいないことはビジネスパーソンのキャリアアップを邪魔することがわかります。

「単位」を使いこなす人がビジネスではうまくいく

ここで、とてもシンプルな問いをひとつご紹介します。

ビジネスにおいて、「数字の隣」には何があるでしょうか?

意図がわからず戸惑われる人もいるかもしれません。もしよろしければお仕事で扱っているデータや会社の数字、ビジネス文章などを眺めてみてください。数字の隣に、必ず存在するものがあるはずです。

正解は「単位」です。

かつてみなさんが学生のころに取り組んでいた算数や数学といった抽象の世界であれば、数字の隣には単位がくる、ということはありません。分数の計算や方程式を解く問題で使う数字は単位などなくてもよかったはずです。

しかしビジネスで扱う数字は具体の世界で扱う言語です。100円、60万人、5.5時間、900個……。このように必ずと言っていいほど単位があります。数字の隣には単位があり、数字とその単位をセットにして扱うのです。

そして私がこの仕事をしていてわかったことは、数字に慣れ親しまないまま大人になってしまった人は「単位」を扱う発想が皆無だということです。

たとえば、「1270億」を「127,000,000,000」と書いて計算する人は、「億」という単位を使う発想がないということになります。もちろん「億」の存在は認識しているのですが、このような場面で単位として扱うことを動作にできないのです。

127,000,000,000127,000,000(千)127,000(百万)1270(億)127(十億)

これらはすべて同じ数であり、量として捉えるときはもちろん、表記する際もこの中から自由に選ぶことができます。瞬時に適切な単位を「選ぶ」ことができる人は、数字センスのある人と言ってよいのではないでしょうか。

単位を変換して、数字をわかりやすく

さらに、数字センスのある人は、扱いやすいものを選ぶという特徴があります

たとえば、日本を代表する企業であるトヨタ自動車の2021年4月1日から2022年3月31日までの営業収益(売上)は 31兆3795億円であり、営業利益は2兆9956億円です。

しかし、異なる業界の人や学生にとっては、この数字はあまりに大きいために意味づけが難しいこともあるかもしれません。そこで単位を変換することで、扱いやすい数字を選んで思考やコミュニケーションに使うこともテクニックのひとつです。

この期のトヨタ自動車の従業員数は37万2817人とのこと。そこで一人あたりの数字に変換すると次のようになります。

一人あたり営業収益(売上) 8400(万円/従業員)一人あたり営業利益  800(万円/従業員)

一人の従業員が1年間で稼いだ営業利益はざっと800万円であることがひとめでわかります。だいぶ手触り感があり扱いやすい数字になり、学生でもその意味は理解できるでしょう。これもまた単位を変換することで扱いやすい数字を作った例と言えます。

あなたがイメージする「数字センスのある人」はまさにこのようなことがパッとできる人のことを指すのではないでしょうか。そしてこの変換という行為も、まさにいくつかある単位の中から選んだことにほかなりません

私はセンスとは選ぶものに表れると思っています。服のセンスがいい人は、素敵な服を選んでいます。会話のセンスがいい人は、TPOに合わせて適切な言葉を選んでいます。数字センスとは、選ぶ能力なのです。

このように数字センスを鍛えるためのポイントは、実は数字そのものにはありません。計算力もほとんど必要ありません。数字の隣にあるものがカギを握っています

ビジネスパーソンの皆様にはぜひこれからは「数字の隣」を気にしていただき、単位を選ぶことを楽しんでいただきたいと思います。

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