企画のプロともいえる村瀬健氏。「企画書は見た瞬間に面白いと思わせることが大事」だと語る(撮影:後藤利江)ドラマ『silent』『14才の母』『BOSS』『SUMMER NUDE』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『信長協奏曲』、映画『帝一の國』『約束のネバーランド』『キャラクター』など、数々のヒット作を生み出してきたプロデューサー・村瀬健氏。企画のプロともいえる彼が語るのは、「企画書は見た瞬間に面白いと思わせることが大事」という、目からうろこの内容。『silent』の企画書が掲載されていることでも話題の初著書『巻き込む力がヒットを作る "想い"で動かす仕事術』から、一部抜粋・再編集してお届けします。

企画書が果たすべき2つの使命

自分の“想い”を2つの角度で見せる。

端的に言うと、企画書は「僕はこれをやりたい」というものをまとめた文書です。そして当然のことながら、企画書は様々な人の目に触れるわけですが、「僕はこれをやりたい」という自分の“想い”を一本調子で語るのではなく、2つの角度から見せる必要があると思って書いています。

その一つ目は、脚本家、監督、出演者、といった自分の仲間になる人たち、つまり同じ船に乗ってもらう人たちに「一緒にやろうぜ、この船に乗ろうぜ」という自分の気持ちを見せるという角度。逆に言うと、仲間たちに「これなら一緒にやりたい」と思ってもらえるような見せ方です。

もう一つは、サラリーマンである僕が、上司や編成など決定権を持つ会社の人たちにアピールするという角度。「この企画、面白そうでしょ。これにベット(確信をもって信じる)しませんか?」という見せ方になります。つまり、「これ、当たりそうでしょ?  当たりますよ、絶対!」というやつです。正直なところ、本当に当たるかどうかなんて分かりません。

それが分かるなら、僕はきっと、ディズニーランドならぬ「村瀬ランド」を作れているはずです。でも、「当たるかも」と思わせることはできます。「これは絶対に当たります!」を、自分なりの根拠と共に語り、決定権を持つ人に「確かにこれは当たりそうだな」と思わせる。そのための書き方、見せ方を僕はいつも意識しています。

この2つは、外部向けと内部向けであり、情熱的な見せ方と実務的な見せ方と言うこともできるかもしれません。僕は企画書を作る時、この2つの見せ方を意識しています。

企画を象徴する写真が旗印となる

企画書の表紙には一枚の写真。

先ほど、企画書の「2つの見せ方」という話をしましたが、見せ方は2つでも目的は一つです。それは、相手に「面白い」と思わせること。「つまらなそう」と思われて企画書のページをめくる手が止まるのは、こちらとしては絶対に避けたいことです。極論ですが、企画書は相手に見せた瞬間に「面白そう」と思わせるくらいの方がいい。ということは、企画書の表紙が大事になってきます。

企画書の1枚目を見た時に「面白そう」と思わせるためにはどうすればいいか。僕のやり方は、表紙に写真を一枚だけドンと置く、というスタイル。表紙に置く写真の絵柄は、その企画のイメージを自分の中で膨らませていった先にあるような、企画を象徴するものにします。

『silent』の企画書の表紙にも、一枚の写真を置きました。真っ白な雪原の中に木が一本だけ立っていて、その向こうにはうっすらと穏やかな日差しが差し込んでいる写真です。

『silent』企画書表紙(写真:まちゃー/PIXTA)

劇中に雪原のシーンは一回も出てきません。だけど、僕の中では『silent』の企画を思いついた時のイメージがこの雪原でした。『silent』というタイトルもこのイメージと同時に決めていたので、『silent』というすべて小文字のアルファベットも、雪原に立つ一本の木とともに企画書の表紙に入れ込んであります。

この本の中で何度か「同じ船に乗る」という言い回しで、企画を進める仲間たちについて語ってきました。その船の旗印となるのが、企画書の表紙のイメージなのかもしれません。チーム全員で一つのイメージを共有するという意味でも、企画書の表紙にはかなりこだわっています。

見せる相手に合わせて微修正。

細部の話になりますが、企画書の色使いやフォーマットなどにも注意を払っています。色使いやフォントは、企画書の見た目を少しでも良くするために手をかけている部分。企画書のタイトルを何色にするか、文字の大きさをどうするか、それだけで2時間くらいかけることもあります。企画書のフォーマットは、過去に自分が作ったものをずっと使い回しています。

PowerPointのデザインを使いつつ自分なりに作り上げたスタイルなので、パッと見の印象がほかの人の企画書と被ってしまう、ということがまずありません。それに、同じフォーマットを使い続けていると、レイアウトを見るだけで僕の企画書だということが伝わるというメリットもあります。フジテレビの上層部や編成の皆さんはきっと、表紙を見ただけで僕の企画書と分かってくれているんじゃないかと思っています。

また、見せる相手に合わせて企画書の見せ方を少しずつ修正することも少なくありません。役者さんに見せる時には、その人の役どころが一番分かりやすくなるように説明を増やしたりします。

「見た目」の次に大事なのは「分かりやすさ」。

当然ですが、どれだけ見た目が良くても、中身が分かりにくい企画書ではダメ。企画書で「見た目」の次に大事なのは「分かりやすさ」です。かと言って、長々と文章で説明するのも逆効果だと思います。僕がドラマや映画の企画書を作る時に目指している分量は、できれば1ページか2ページ、多くても5ページくらいまでです。そして5ページ見たら中身が分かるように、内容を簡潔にまとめることを意識しています。

5ページで表現できないような面白さも世の中にはあるのでしょうが、簡単な説明で伝わらないものは、作品が完成しても結局は伝わらない、と僕は思っています。なので、企画書を作る時には、分かりやすくできないなら企画自体を捨てる、面白い企画書にならないのであれば中身もきっと面白くない、そういう感覚で作っています。

AIはエモい企画書を作れるのか?

企画書はラブレター。

ご多分に漏れず、うちの会社でも少し前にChatGPTが話題になったのですが、同僚の中には試しにChatGPTに企画書を作らせた人もいました。その同僚によると「ChatGPTはそれなりにいい企画書を作ってくるけど、エモさがない」とか。エモさがない、というのは、情熱がないとか、この企画を実現したいという“想い“が伝わらないとか、色々ありますが、とにかくエモさがない、と。「こういう気持ちの部分は、やっぱりAIにはできないんだな」とその同僚は納得していました。

『巻き込む力がヒットを作る "想い"で動かす仕事術』(KADOKAWA)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

AIと張り合うわけではありませんが、僕の企画書にはそういう“想い”はかなり乗っていると自負しています。「絶対にこれをやりたいんです!」とか「必ず当てます!」とか、そういう気持ちで企画書の隅々まで埋め尽くされている。

企画書はラブレターみたいなもので、自分の“想い”を相手に伝える場です。人の“想い”は、企画書を作った人から企画書を見る人へ、ちゃんと伝わっていくものだと信じています。だから、伝わるように書いた方が、絶対にいい。そう思っているから、僕は、AIには企画書作りを任せないし、自分と同じようなエモい企画書はAIには作れないはず!と思っています。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。