「すべての企業はソフトウェア企業である」。DXは、その目的である「データの利活用」、日本の中堅・中小企業が実践できる「既存事業のデジタル化」が推進のカギとなる(写真:Turn.around.around/PIXTA)「デジタル化」は、すべての企業が避けては通れなくなった。だが、なぜ日本企業のDXは変革に結びつかないのだろうか。それは「DX」という言葉の「定義」と「対象」が一様ではないことに原因があるのではないか――。DXの推進には、その目的である「データの利活用」と、日本の中堅・中小企業が実践できる「既存事業のデジタル化」がカギとなる。では、いかにして自社の経営戦略にデジタル戦略を組み込むべきか。その神髄をまとめた『日本型デジタル戦略』(クロスメディアパブリッシング)より、抜粋記事をお届けする。

すべての企業がソフトウェア企業

“Every company is a software company.”

「すべての企業はソフトウェア企業である」

デジタル化が加速する今、これほど、「第4次産業革命」の本質を象徴的に表した文章はないだろう。

デジタル化が経済に大きな影響を与えはじめたのは、2010年代前半のことである。多くの企業がクラウドベースのソリューションに移行を始め、データアナリティクス、人工知能、IoT(インターネット・オブ・シングズ)など新たなテクノロジーを積極的に取り入れた。

そうしたなか、2014年にマイクロソフトの3代目CEOに就任したサティア・ナデラが、その後しばらくして使いはじめた「すべての企業はソフトウェア企業である」という文章は、またたく間に世間の注目を集めた。

「すべての企業」――。つまり、どの業界にも適用可能なほど、新たなテクノロジーがビジネスランドスケープを変容させていくことを示唆していたからだ。

この発言は、企業が生産性を向上させる、新しいビジネスモデルを開発する、コストを削減する、より良い顧客体験を提供するなど、企業活動の多くの点でソフトウェアとデータを活用する必要があることを、世界中の経営者に気づかせた。

これにより、伝統的な「ハードウェア」企業でさえも、ソフトウェア開発とデータアナリティクスに力を入れるようになっていった。

“非”ソフトウェア企業がたどる道

しかし今、自社を「ソフトウェア企業」と自認していない「“非”ソフトウェア企業」にとって、ソフトウェア企業への変貌の道は、まったく想像し得ないものだろう。

年商100億円を超えるような企業であればコンサルティングファームに依頼し、道筋・手順を示してもらうこともできる。

しかし、そのような企業はほんの一握りしかなく、自社にフィットせずに業績に結びつかないというケースもよく耳にする。それ以外の日本の企業は全体の99.6%に及び、そのなかでも積極的な取り組みを考えている企業・経営者はほんのわずかにすぎない。

この状況を変えるためにはまず、日本における「DXの見えない壁」について、ご理解いただきたい。

課題は「DX」ではなく、その「壁の打破」そのもの。つまり、ソフトウェア企業に変貌する自社の未来が見えないのは、DXが言語化できていないためだ。

中央省庁が提唱しているDX定義をあらためて確認してみよう。注目したいのは、省庁によりDXの定義が「産業レベル」と「企業レベル」に分かれている点だ。

それぞれを見ていくと、総務省による『情報通信白書』の産業レベルのDX定義は「産業のビジネスモデル」の変革とし、経済産業省の企業レベルのDXの定義は「ビジネスモデルや企業文化など」の変革としている。

これらの中央省庁が提唱するDXとは、まるで19世紀のイギリスの画家であるターナーの絵のごとく、写実的な風景画(業務効率化や業務改革)と、鑑賞者により解釈が異なる抽象画(企業変革)の両画法を、その都度用いてDXの世界観を描き出しているように見える。

そのため、そもそもの前提として、DXの定義が「産業レベル」を対象にしているのか、「企業レベル」を対象にしているのか、読み解く力が経営者に求められている。

また、「企業レベル」であれば、「既存事業」を対象に含めるのか、新たなビジネスモデルにおける「新規事業」を対象にしているのか。あるいはその両方を対象にしているのか。

それは中央省庁のDX定義だけでは読み解けない。

この「企業レベル」のDX定義に関しては、重要な観点があるため、少し補足したい。

日本の99.6%を占める中堅・中小企業経営者の方々は、新規事業や企業変革に踏み込めない理由として、「会社の幹となる既存事業が優先」「既存事業で十分な利益が確保できなければ他への投資はできない」「既存事業で生き残れればそれで十分」とお考えではないだろうか。

事実、既存事業の業務効率化や業務改革から進めなければならない企業もあれば、新規事業を通じた企業変革から進められる企業も存在し、それぞれの置かれている状況は異なる。

しかしながら、提示された文言、たとえば経済産業省の「デジタルガバナンス・コード」にあるDXのプロセスを見ると、主に企業変革を進められる状態の企業にのみ焦点が当てられているような表現になっている。

つまり、既存事業の業務効率化や業務改革のためのDXを必要とする経営者の視点が欠落している。ここが日本の生産性を労働の現場から高めていく出発点であるにもかかわらず、である。

99.6%の経営者が知りたいDX推進の前提となる既存事業による利益確保が考慮されていないのだ。

日本企業が足踏みしている一因は、DXという言葉の定義と対象が一様でないという言葉の曖昧さにあるといえる。

「既存事業のデジタル化」がカギ

“非”ソフトウェア企業がソフトウェア企業へと変貌するための道筋は、「新規事業を通じた企業変革」だけではない。

既存事業を守り、発展させてきた多くの日本企業にとって「新たな価値を創出する」ためには「既存のビジネスモデルや企業文化などの変革」も選択肢である。

産業レベルと企業レベルで異なるように見える「DXの定義」は、日本の企業・経営者が大切にしてきた「既存事業」からスタートすることではじめて、推進すべき自社独自のDXの「言語化」と「定義」が可能になる。

産業革命が手工業を工場生産に発展させ、やがて大量生産という社会的変革さえも起こしたように、第4次産業革命においてもデジタルの活用により大きな影響を受けているのは既存事業なのだ。

「新規事業」と「既存事業」はまったく別のものではなく、「既存事業」に新しい価値で切り込んでいく「新規事業」もあれば、いくつかの「既存事業」を巻き込んで新しい価値を生み出す「新規事業」もある。

そこで用いられる手段こそが「DX」だ。そして、それはデータ活用のために活用される。

DXが必要な「データ」はどこに?

あなたの会社のどこに「データ」はあるのか?

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それさえわかれば、大切な既存事業に新しい価値を与える自社にとっての「DX」が浮き彫りとなり、言語化が可能になる。

「データ」と聞いて臆する必要はない。日本は「ものづくり大国」を自認し、その製品自体が顧客との接点を生み出してきた。製品そのものから顧客のデータを取る仕組みを古くから構築してきた。ここに大きな意味がある。

なぜなら、まったくの新規事業を生み出そうとする現在のデジタル先進企業は、「モノ」を持っていないケースが多いからだ。既存事業には、顧客と結びついた膨大なデータが内包されていることに、多くの経営者が気づかないでいる。

その違いが「新規事業」を生み出す者と、「既存事業」に新しい価値を見出す者に異なる意味を与える。この違いを知り、写実的な自画像を描くための最適な手段を「発明」する必要がある。

ぜひ、この話をあなたの会社と既存事業に重ねてみて考えていただきたい。

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