オーシャとメイの2役を演じるステンバーグ ©2024 LUCASFILM LTD. & TM. ALL RIGHTS RESERVED.

<スター・ウォーズ帝国の宿命とディズニーの経営戦略に、最新のスピンオフ作品『アコライト』もからめ捕られてしまった>

米フロリダ州のディズニーワールドにあった「スター・ウォーズ」のテーマホテルをご記憶だろうか。2022年の春にオープンしたが、わずか18カ月で実に2億5000万ドルの赤字を出してつぶれてしまった。

なぜか。その答えを人気ユーチューバーのジェニー・ニコルソンが4時間6分の長尺動画で解説している(再生回数は約800万回)。2泊3日でスター・ウォーズの世界に「没入」できるという触れ込みのホテルに、ジェニーは1泊1600ドル以上も払って泊まってみた。そして今のディズニーは「ブランド品の価格はどんどん上げ、提供する価値はどんどん減らす」傾向にあるが、このホテルはその典型だという結論に達した。

6月5日からディズニープラスで配信が始まったドラマ『スター・ウォーズ:アコライト』にも、残念ながら同じ傾向が見られる。

レスリー・ヘッドランドが脚本・制作総指揮を務める全8話のシリーズ。最初のうちこそ壮大な物語を予感させるが、中盤に差しかかる頃(批評用に筆者らが見せてもらったのは第4話まで)には力尽きてしまう。本気でやりすぎると、既にブランド化している「スター・ウォーズ」の世界を壊すことになりかねないからだ。

『アコライト』は帝国誕生100年前の世界を舞台に、かつてジェダイの戦士になるべく修行を積んでいたが現在は宇宙船の整備士として働いている女性オーシャ(アマンドラ・ステンバーグ)を主人公に据えている。

最初のシーンで、オーシャは淡々と雑用をこなし、仕事仲間と気楽なおしゃべりを楽しんでいる。だが私たちは、そこで「えっ?」と思ってしまう。タイトルが出る前に流れた衝撃の映像で、彼女は1人のジェダイ・マスター(キャリー・アン・モス)と死闘を繰り広げていたからだ。

帝国成立100年前のジェダイは悪者だったのか

ジェダイ・マスターの殺害を受け、ヨード(チャーリー・バーネット)を含むジェダイの面々が犯人捜しに来て、目撃証言からオーシャを尋問するのだが、どう見ても彼女が容疑者とは思えない。では真犯人は誰なのか?

冒頭に現れた驚異の女殺し屋はオーシャではなく、別の誰かの幻影だったのか。私たちは妖術にかかって、殺し屋の正体を見誤ったのか?

実を言うと、この謎の答えは単純明快で、殺し屋の女とオーシャはうり二つの双子だった。だが、それはそれで「スター・ウォーズ」のシリーズが実は低予算の冒険ものとして始まったという事実に脚本家のヘッドランドが忠実だったことの証しとも言える。

ソルを演じるのは『イカゲーム』で注目を集めたイ・ジョンジェ ©2024 LUCASFILM LTD. & TM. ALL RIGHTS RESERVED.

ただし「スター・ウォーズ」シリーズ初の実写ドラマだった『マンダロリアン』(19年)と違って、『アコライト』はお手軽な冒険譚ではない。そこには(かけらだけだが)神話的な奥深さが見て取れるし、運命と選択、復讐と許しをめぐる壮大な物語を語ろうという意図も感じられる。

殺し屋のメイ(ステンバーグの1人2役)には、少なくとも4人のジェダイを殺したい理由があるらしい。しかも、その理由は(少なくとも最初のうちは)正当なものに思える。

なぜなら当時(つまり帝国成立の100年前)のジェダイは宇宙のあちこちで、戦士候補生の「パダワン」になれそうな子供たちをかき集めていたからだ。当時は特別な敵もいなかったから、ジェダイは宇宙の庶民を取り締まる警察のような役回り。そんな状況だと(今もそうだが)警察官は時に道を踏み外す。

「スター・ウォーズ」という伝説を前にした野心と恐れ

印象的な回想シーンがある。オーシャが双子のメイと出会う場面だ。このあたりで視聴者は、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』以来最も大きく世界観を揺るがす展開を期待するかもしれない。

もしもフォースを操れるのがジェダイだけではなく、もしも光と闇の境界線を引くのに別の方法があって、もしかしてジェダイが悪者だったとしたら? さあ、どうする?

残念ながら、少なくとも筆者が見た前半4話まででは、そういう大胆な展開は見られない。おそらく「スター・ウォーズ」のブランドイメージを崩すなという圧力が働いたのだろう。だから余計な波風は立てないような展開になっている。

そう、ここには1つのパターンが見られる。伝説を書き換えようとする意欲が、やがて伝説の破壊を恐れる気持ちに負けてしまうパターンだ。

17年の『最後のジェダイ』では大胆な展開が描かれたが、次作の『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は従来の路線に戻ってしまった。ドラマの『マンダロリアン』は重苦しい伝統を切り捨てて冒険ものに徹しようとしたが、やはり「スター・ウォーズ」ブランドの偉大な伝統は壊せなかった。あの「スター・ウォーズ」ホテルがそうだったように。

現在配信中の『アコライト』には独自の地平を切り開こうとする意欲も認められる。韓国ドラマ『イカゲーム』で名をはせたイ・ジョンジェ(ジェダイ・マスターのソル役)の演じる壮絶な格闘シーンは最高にクールだ。

しかし1億8000万ドルと伝えられる巨費を投じたにもかかわらず、「スター・ウォーズ」の世界を拡張することには成功していない。個々の見せ場は確かにすごい。でも私たちの「没入」できる世界ではない。

残念、フルスイングのホームランを狙ったはずの『アコライト』も定石どおりのバントに終わるらしい。

©2024 The Slate Group

The Spectacular Failure of the Star Wars Hotel

『スター・ウォーズ:アコライト』|本予告 日本語吹替版|Disney+ (ディズニープラス)

The Acolyte | Official Trailer | Disney+

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