戦後日本の女性たちにウエディングドレスで「夢」を届け、「ブライダルの伝道師」と呼ばれた桂由美さんが4月26日に亡くなった。華やかな世界で躍動したその胸の奥には終生、戦時の悲惨な光景があった。「おとぎ話」のようなドレスに憧れたのは、目を背けたくなる現実から遠くへと逃れるためだった。
東京・小岩の生まれ。都心部の学校に通っていた中学生時代に終戦を迎えた。海軍に憧れるような「軍国少女」。だが、1945年3月の東京大空襲で見た風景に打ちのめされた。
この大空襲で実家は焼失を免れた。翌朝、電車の線路の上を歩いて学徒動員先の工場を目指す。途中、焼け野原となった下町の駅前を歩いてみた。真っ二つになった馬の胴体から、白い腸がはみ出していた。
45年8月、敗戦を迎える。放課後、演劇部の活動にのめり込んだ。架空の「物語」が、過酷な現実を忘れさせてくれると思った。その後、パリに留学。自身の憧れを、一生の仕事として選んだ。
ウエディングの専門店は、戦後日本の結婚式の風景を大きく変えた。
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