静岡県議会議長に知事の辞職を届け出た川勝平太氏(中央)=10日午前、静岡市葵区
白鳥浩・法政大教授

「静岡の顔」が5月、表舞台から去ることになった。職業差別とも捉えられかねない自身の舌禍への批判がやまず、4期目の任期途中で辞職に追い込まれた静岡県の川勝平太知事。問題発言のたびに謝罪を繰り返してきたが、最後も自身の発言が「命取り」となった。15年近くの川勝県政の評価や5月の知事選のポイントなどについて、法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)に聞いた。

--問題発言は県の新規採用職員の訓示で飛び出した。「県庁はシンクタンクです。野菜を売ったり、牛の世話をしたり、モノをつくったりということと違って、皆さまは頭脳、知性の高い方たち」との発言をどう受け止めたか

「今回の発言はこれまでの発言と質的に違う。選挙の応援演説で対立候補の地盤を『コシヒカリしかない』といった過去の発言は『地域』の違いを揶揄(やゆ)したが、今回は職業、つまり、その職業の『人間自体』を対象にしており、職業差別発言と受け取れる可能性もある。ある種、人権にかかわる発言ともいえ、今回の辞職は発言の質の違いを自覚したのだろう」

--そもそも失言をなぜ繰り返すのか。川勝氏は過去の失言を批判され、「猛省する」「生まれ変わると富士山に誓った」と豪語していたが…。県政界からは「『学ばない』にもほどがある」との指摘もある

「川勝氏の政治スタイルは大きな権力を持つ国などを敵とみなし、その敵に対抗する言動を通じて自身の正当性を担保する手法だ。いわば『劇場型』といわれる手法で有権者の一部に支持されてきた一方、分断を助長してきたところもあるのではないか。劇場型政治スタイルを変えてしまえば、知事にとって自分ではなくなってしまうから学べない。むしろ、学ぼうとせず、長期政権の中でしだいに自分を見失っていったのだろう」

--「学ばない」の根底には、自分は何も悪い発言はしていないという意識があるように映る。4月10日の辞職届提出後の記者会見でも「職業に貴賤はないんです。そういう意味で申し上げましたといっても、(受け止めは)職業差別だということでですね…」と弁明を繰り返した

「だから、何も学んでいない。辞職願の提出に際して細川ガラシャの辞世の句を引用するあたりは『川勝劇場』の集大成といえる。ただ、これまでは自分よりも強い権力を持つ国などを相手にたたいていたが、今回は市井の人たちをたたいてしまったのは、自分を見失っている証拠だ」

--「超短期決戦」となる次期知事選の焦点は

「県政を無責任に投げ出した川勝氏に最も振り回されているのは県民、リニア問題を含めると国民全体も振り回されている。川勝県政の何を変え、何を継承するかが問われており、有権者はここで冷静になって選択する必要がある」

--主要政党の対応は

「川勝氏を知事の座から引きずり降ろそうとしていたのは自民、公明両党で、早期辞職を求めた両党の責任はある。だからこそ、安易な与野党相乗りは許されない」

(聞き手 岡田浩明)

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