少子化対策財源としての「子育て支援金」をめぐる法案が衆院を通過した。岸田文雄首相は「実質的な追加負担は生じない」と説明している。一方、立憲民主党は、支援金の代わりに「日銀が保有する上場投資信託(ETF)の分配金を財源に充てる」として政府の子ども・子育て支援法改正案の修正案を打ち出したが否決された。
政府・与党側の子育て支援金の議論は、かつて自民党の若手から出た少子化対策としての「こども保険」を想起させる。
本来「保険」とは、偶然に発生する事象に備えるために多数の者が保険料を出し、事象が発生した者に保険金を給付するものだ。仮に子供を持つことを「偶然」としても、夫婦になるのが75%程度、そのうち子供を持つのが90%程度なので、ざっくりいえば、100の保険料支払いで子供を持った人が150程度を受け取り、独身または子供を持たない人は100の保険料を取られっぱなしとなる。
子供を持つ人にとって、100出して150受け取るのではあまり意味はないし、独身または子供を持たない人にこうしたペナルティーを与えるのは適当でないので、保険にはなじまない。そもそも、子供を持つことが偶然とも言えないという本質的な問題がある。
ここまで来ると、子育て支援を推進する勢力は、税金を財源にしたいが、世間の反発があるので、「社会保険料」や「支援金」と名前を変えて国民から徴収するというのが狙いだとバレバレになってしまう。
基本的なコンセプトが間違っているのに言い訳を重ね、ついには「子育て支援金は負担にならない」と言い出した。賃上げがあるから負担ではないとか、政府内で歳出をカットするから負担ではないという理屈だ。
賃上げがあっても子育て支援金を取られるなら負担であるし、歳出カットができるというのなら、国民に支援金を求めずとも、政府内でカネを回せば子育て対策ができてしまう。つまりこれらは全くの詭弁(きべん)だ。
この子育て政策は、かつて自民党内で少子化対策の「子ども保険」といっていたあたりから、本質がズレまくっていたが、ついにここまできたかとあきれてものも言えない。
こんな与党の情けない議論が許されるのは、野党側の対案もまったくなっていないからだ。立憲民主党はETFの分配金を財源にすると主張したが、ETF分配金は、すでに「日銀納付金」として一般会計に入っている。与党の体たらくをさらに上回るもので、本当にどうしようもない低レベルなものだった。
保険とはいえないのに保険と称して国民から徴収しようとする発想が情けない。堂々と増税を掲げたり、既存経費を削減するというほうがまだましだ。
筋論をいえば、少子化対策が本当の目的であるならば、未来への人的投資として考え、国債を財源とするのが最も適切であろう。この考えについては「教育国債」として何度か紹介した。なお、少子化対策は各国でも行われているがこれといった決定打は少ない。投資である以上、効果が確実なものに絞るべきだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)
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