起業家の家入一真さん(45)はかつて、不登校になってひきこもり、高校を中退しました。その後に入った会社にも行けず退社を繰り返しました。そんな経験をもとに、悩んでいる子は「逃げてもいい」と呼びかけます。その真意とは。

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  • 学校行かずとも「オリジナルの青春」を タレント・ひかりんちょさん

 中2のとき、仲が良かった友達とけんかしたのを境に、みんなから無視されるようになりました。それまで中心的な立ち位置で、友達も多い方だったのに、急に孤立したんです。

 いつもみんなでサッカーをしていた昼休み、教室に一人残されました。いたたまれず、図書室に逃げこみましたが、とても惨めでした。

 だんだん学校に行かなくなりました。両親は当初、無理やり連れて行くこともありましたが、僕がすぐに学校から逃げ帰ってくるのを見て、何も言わなくなっていきました。

「世界の全て」だった学校 そこからこぼれ落ちた絶望

 完全に学校に行かなくなると、生活は昼夜逆転しました。昼間は同級生に会うのが怖くて外に出られないので、夜に24時間営業の本屋に行って立ち読みをしました。

 当時、僕にとって学校が世界の全てでした。そこからこぼれ落ちて、将来も見えない。何より期待してくれた親に申し訳なかった。そんな思いがあるから、自宅も安心できる居場所ではありませんでした。

 死にたくなるほど思い詰め、書き置きをして家を出ようとしたことが何回もあります。でも、書き置きをしているうちに涙がとまらなくなったり、出て行ってもすぐにあきらめて戻ったり。意気地がなくて、踏み切れませんでした。

 県立高校に進学し、少し登校しましたが、やがてまた行けなくなりました。中学時代に僕を無視した友人はもういないのですが、これを言ったら嫌われるんじゃないか、この表情では怒らせるのではないか、と常に考えるようになってしまい、人と接するのが苦痛だったんです。今でも、人の反応を気にしてしまうとか、目を見て話せないといった癖が残っています。

 それに、もともと時間が守れないとか忘れ物をしがちな面があって、決まった時間に行って決まった時間割の授業をこなしていくというのが向いていなかったのかもしれません。

パソコン通信でやりとり 気持ちが好転

 思い詰めた気持ちが好転するきっかけは、パソコンを買ってもらったことです。インターネットが本格的に普及する前で、パソコン通信の時代。料金が安い未明に回線をつないで、知らない人と文字だけでやりとりしました。

 たわいない話でしたが、僕の話を聞いてくれる人がいるのが救いで、居場所があると感じられました。クラウドファンディングサービスなどネット上で人と人とをつなぐ事業を立ち上げてきましたが、この時の体験が強く残っていることが大きいと思います。

 高校を中退した後、芸術大学を目指して新聞配達をしながら予備校に通いました。でも、しばらくしておやじが交通事故に遭い、働けなくなってしまったんです。進学は諦めました。

 雇ってくれる会社で働き始めたのですが、時間通りに出社するとか適切なコミュニケーションをとるというのができなくて、結局出社拒否みたいになりました。すぐにクビになって、2~3社を転々としました。学校も含め、すでにあるコミュニティーの中でうまく立ち振る舞うっていうのは結局できなかったですね。

起業した理由は「追い詰められた結果」

 もはや自分でやるしかない。起業したのは、他の選択肢がなくなり、追い込まれた結果でした。

 運が良いことに、立ち上げたサービスが割とうまくいって人を雇うようになり、従業員の数が増えていきました。それでも、自分でつくった会社という安心感があった。初めて居場所を手に入れられたんです。

 気をつけなければならないのは、これは僕がたまたまそうだったというだけで、他の人にとって必ずしも再現性があるわけではないということです。不登校からひきこもりになって、ずっと外に出られない人もいるし、やがて命を落とす人もいる。起業したらいいとか、無責任なことは言えません。

 それでも、悩んでいる人には「世界は広い。そこから逃げていいんだ」と伝えたい。こう言うと、逃げれば本人に必要な経験が身につかず、不利益になるかもしれないとか、安易に勧めるのは無責任だと思う方もいるかもしれません。ただ、多くの子は学校や家庭で「戦え」と言われ、逃げずに向き合うことこそが良いことだと思わされていると感じています。時代は変わってきていると思いますが、それでもまだまだそうした風潮は根強い。

「逃げる」はポジティブ 自分自身を大切にすること

 学校でのいじめや会社のパワーハラスメントなど、世の中には圧倒的な暴力があります。コミュニティーの中での孤立など、耐えがたい苦痛もあるでしょう。それらから逃れることは、自分自身を大切にすることであり、命を守ること。ポジティブな行動ととらえるべきだと思います。逃げて逃げて、逃げ切れたところで呼吸を整えることで、ようやく「次どうしようか」と考えられる。その後になれば、また戦うことができるかもしれない。そう思います。

 僕の子どもは、登校時間も時間割も決まっていない自由な学校に通っています。もちろん、時間がきちんと決まっている学校の方が合う子も多いとは思いますが、合わない子もいる。フリースクールや通信制高校など、いまは昔ながらの学校とは違った学び方がたくさんあります。選択肢が広がっているのはいいことだと思います。

 いま、親になって思うことは、子どもに対してできることは、「こうあるべきだ」「こうなってほしい」という思いを極力排して、選択肢をたくさん与えることだけだということです。保護者や周囲の大人には、逃げることも含めて様々な選択がありうると子どもに伝えたうえで、あとはじっと待ってあげてほしい、と言いたいです。(聞き手・高浜行人)

 いえいり・かずま 1978年、福岡県生まれ。2003年にレンタルサーバー会社を設立、08年にジャスダック上場。11年にクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」創業、代表取締役。12年にネットショップ作成サービス会社「BASE」を共同創業。

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