選択肢が加速度的に増える一方で、今ある当たり前が明日にはなくなってしまうかもしれない時代の中、われわれは「仕事」とどう向き合うべきなのか。働く人の「今」にフォーカスし、その仕事像に迫る「ドキュメンタリー 仕事図鑑」。第1回は、資生堂で化粧品の研究開発を行う三浦由将・ブランド価値開発研究所プロダクト価値開発室長に密着。チームを率いて新商品開発などに取り組む日々の中で、どんなことを感じているのか。じっくり話を聞いた。※記事の内容は動画「ドキュメンタリー 仕事図鑑」の取材における本人のインタビューを基に再構成したものです。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。

本質的にサイエンティストでありたい

――具体的な仕事の内容は?

化粧品の中身、つまり原料や構成成分に由来する処方の「決裁」をする役割を担っています。「この中身で世の中に出しますよ」という提案に対して、それでよいかどうかを判断する仕事です。

――なぜ、化粧品の研究者に?

あの頃(就職時)の資生堂はたしか、「人を彩るサイエンス」という言葉を使っていて、それに感銘を受けました。サイエンスで生活者に貢献したい。その(実現の)手段としての資生堂が、非常に魅力的だったということですかね。

小さい頃から数字が好きでしたし、本質的に“サイエンティストでありたい”という思いがありました。なので、(進路については)文系・理系で悩む余地もなく理系に進もうと思っていましたし、そこで身につけた知識を役立てられる仕事に就きたいと思っていました。

――仕事をするうえで、責任を感じる瞬間は?

まずは生活者の方に対する責任ですね。期待していただいたとおりのものを世に出せているかどうか。フィードバックは非常に気になります。

店頭のスタッフや営業、マーケターに対しては、(商品が)予定したとおりに仕上がっているか。決裁という業務に関していえば、これで行こうと決断したものがちゃんとそのとおりに動いているか。こういった部分に責任を感じることもあります。

ただ一番大きな責任は、資生堂として、社会に対する存在意義を発揮できているかという点にあります。期待に応える、期待を超えるような価値を提供して、「資生堂さんいいもの作ってくれましたね」と思ってもらえることが最も重要かなと。

「いいところに気がついてくれましたね」「こういうものを待っていたんですよ」と言ってもらえるところまで、追求したいと思っています。

働きながらでも博士号を取れる

――若手研究者に学会で発表することを勧めているそうですね。

サイエンティストの大きな目標の1つは博士号の取得だと思っています。ずっと活躍していきたいならなおさら、学位の取得は重要です。

化学を専攻する理科系の人には、大学を出た後、大学院に行くか、働くかという選択肢があります。(大学院に)もう3年間在籍して後期課程で博士号を取る方法もありますが、社会人として働きながら学位を取る方法もある。私はそちらを選択しました。

もちろん、働きながらとなると簡単ではありません。私も論文執筆は夜や週末に行ったり、当時はよく出張に行っていたのでその飛行機の中で、狭いながらもよく書いていました。

若手の皆さんにこういった努力を強要したいわけではありませんが、自分がやりたいことであれば夢中になれるものかなと思います。

そしてやっぱり最終的には、企業人として働いている以上、その研究で培った能力を開発の現場にうまく融合させて、シナジーを生み出す。これがサイエンティストとしての存在意義になります。

――三浦さんにとって、仕事とは?

なかなか本質的な話ですよね。そうですね……。

長い人生の中で考えれば、そのゴールに向けての”手段の1つ”みたいなものかもしれません。ただ少なくとも、それをやっているときに関しては、誰かの心に残る製品を作ることであり、これを自分から提案していきたいですね。

そう考えると、(仕事とは)会社の中でのキャリアというより、社会に対して提供できた価値。本物のサイエンティストだったら、(重要なのは)そこだと思うんですよね。

東洋経済の動画シリーズ「ドキュメンタリー 仕事図鑑」では、あらゆる現場の「働く人」に密着し、そのリアルな姿をリポートしています。

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