子供に宿題を出すことに抵抗を示す親。いったいなぜなのでしょうか。※写真はイメージ(写真: mits / PIXTA)学力が低く、授業についていくことができない「教育困難」を抱える生徒たちを考える本連載。今回お話を伺った鈴木先生(仮名)は、東海地域で30年以上、私立高校の教員として働くベテラン教師です。鈴木先生の高校は、偏差値40以下の私立高校で、昔も今も「教育困難な生徒」=「勉強がなかなかできない生徒」が多く通っています。そんな鈴木先生の目から見ると、昔よりも現在のほうが、さまざまな意味で「深刻な」問題を抱える生徒が多くなっているのだそうです。その要因のひとつとして鈴木先生が考えているのが、生徒たちの「親」の変化でした。自身も15年前に「教育困難校」を卒業した濱井正吾氏が、過去と現在の親の変化について伺いました。

生徒の学力の低さや、授業態度などで教育活動が成立しない学校は「教育困難校」と呼ばれており、「底辺校」と揶揄されることもあります。

偏差値40以下の私立高校教員として、30年以上のキャリアがある鈴木先生(仮名)に取材したところ、そうした生徒たちが教育困難校に通う理由には、彼ら・彼女たちの親の存在が大きいとのことでした。

そしてその様相も、過去と現在で大きく様変わりしているとのことです。

教育困難校に関わる教員や、卒業生に話を聞く本連載の2回目は、前回に引き続き鈴木先生の高校の1事例を紹介したいと思います。

生活保護世帯の生徒が増える

現在鈴木先生が働く高校に通う生徒たちの親には、どのような人が多いのでしょうか。

鈴木先生は前回のインタビューで、自身の高校では、生活保護世帯の生徒たちが増えていることを話してくださいました。

そのほかにも、学校側が子どもに課題を与えることに対して、親が過剰に反応をする傾向があるようです。

「今の親世代が、いわゆる『ゆとり世代』だからなのかはわかりませんが、学校側が難しい課題を出すといった、子どもの勉強に負荷をかけることに対して、親がものすごく過剰に反応する印象を抱いています。

そもそも生徒への指導は、生徒たちが『解けるか・解けないか』微妙なラインの問題を解けるようにするものですよね。

『今日習った内容を応用したら、この問題が解けるはずだから、これを解いてみて!』『難しいかもしれないけど、この宿題をやってみよう! これが解けるようになれば成績が上がるよ!』と。

課題を出すと、学校を嫌がっていると抗議

しかし、それに対して親からクレームが入ります。

『うちの子がこんなに学校のことを嫌がってる! どうしてくれるんだ!』と。とにかく親が、子どものことを悪い意味で”子ども扱い”しすぎです。これでは勉強ができるようになるわけがありませんよ。親の意識を変えないと、子どもの成績が上がることはないと思います」

自身の高校に通う生徒と親の関係を見て、「子どもの勉強に対して、親がマイナスな影響をもたらしてしまっている側面がある」というのが、鈴木先生の見立てです。

こうした過保護とも思える子どもに対する扱いは昨今、「発達障害」や「グレーゾーン」と認定される子どもが増えている世の中の流れとも関係があるかもしれません。

2006年に発達障害の児童数は7000人余りだった一方で、2019年には7万人を超えたというデータもあります。

この流れについて鈴木先生に尋ねてみたところ、思い当たることがあるようでした。

「最近、生徒たちの親から『うちの子は、障がいがあるので、宿題を出さないでください』ということよく言われます。

『うちの子はタブレットを使うことはできますが、字を書くことができないんです。そういう障がいなので、そう扱ってください』と言われたこともあります。

でも、その生徒と話していると、私の感覚としては、別にちょっと字が汚いだけの普通の子なんですよ」

「私は専門家ではありませんが、学習障がいのある子どもたちを何人も指導した経験があるので、その難しさを理解しているつもりです。

それでも、私の目から見ても、最近は『この子は本当に障がいがあると言えるんだろうか? もしもその子どもたちが障がいと認定されていないのだとしたら。親や周りの大人がそう扱っているだけのケースもあるのではないか?』と思うこともあります」

生徒の親からのあるクレーム

子どもに対する対応よりも、保護者への対応に頭を悩ませる鈴木先生。その一例として、女子生徒への対応に関する保護者からのクレームもあったようです。

「ある日の授業で、女の子が具合が悪そうにしていました。『体調が悪いので、保健室に行きたいです』と言ったので、ある先生が彼女を保健室に連れていこうとしました。

ただ、その先生は男性教員です。女の子の肩を抱いてしまうとまずいと考えて、子どもに触れないように配慮して歩いていました。しかし、階段で女の子がバランスを崩し、ふらついてしまったのです。

それでも、触れるわけにもいかないから、その先生は『大丈夫か、しっかりしろ!』と言ったんです。それだけで、彼女の親から大クレームがきました。『娘に対して、高圧的な喋り方をした!』と」

「子どもは立っていられないほどつらかったのに、先生が無理矢理立たせるようなことを言ってきた」と、生徒の親は主張したようです。

この生徒の親と直接話した鈴木先生は、その言い分にある種の正当性を感じた一方で、思うこともあったようでした。

「私は直接の当事者ではないですが、彼女の親とお話しすることになりました。私は『女子生徒に気安く触れていませんし、階段だからそのまま転んでしまったら危ないと思います。言い方については、気をつけるべき部分があったのかもしれませんが、ほかにどうしようもなかったのではないでしょうか』と伝えました。

ただ、その生徒の親はそれに対して『この子が苦痛を感じたときに代弁してやるのは、私たち親しかいないんです』とおっしゃいました。

お気持ちはわかりますが、でもさすがにそれはおかしいんじゃないかと思ったのを覚えています。子どもを守るのは親の務めかもしれないけど、『守る』の意味が違うのでは?と感じました」

このように鈴木先生の高校に通う保護者が過敏になってしまう理由の1つとして、鈴木先生は「不登校」の増加を理由に挙げます。

「地域の”底辺校”と呼ばれるような私が勤める高校に通う生徒には、中学校で一度、不登校になっている生徒も多いです。

そうすると、親が『とにかく学校に行けている状態を崩したくない』と考えている場合もしばしばあるのです。

ある生徒の親から『私たちの子どもが、中学生のときに不登校になって、家族がどんなに苦労をしたのか、先生たちは知らないですよね』と言われたことがありました。そういう家庭の親は、とにかく徹底して子どもの味方をしてしまうように感じています」

過剰に子どもを保護するのはいいことか

少子化もあり、1人あたりの子どもに大人が注ぐリソースや時間が増えているとみられる令和の現在。

先生からの教えを「成長のため」と親が容認してきた時代から大きく様変わりし、過剰に子どものことを保護するようになったケースについても、改めて考えていかなければならないと、30年以上教育困難校に務める鈴木先生の事例を聞いていて痛感しました。

鈴木先生への取材の第3弾では、コロナ禍での教育困難校の変化を取り上げます。

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