天才技術者役に挑戦した中島 ©HULU JAPAN
<『コンコルディア』に出会わなければ、30歳の過ごし方は全然違っていたと思う。自分は今、人生をより楽しめる方向に歩みを進めることができている――と中島は言う>
誰にとっても安全で健康的な社会をつくる。そんな理想を追求したのがカメラとAI(人工知能)で住人の生活の全てを監視する街「コンコルディア」。そこで起きた初めての殺人事件がコミュニティーの計画を狂わせていく──。
Huluオリジナル『コンコルディア/Concordia』は、『ゲーム・オブ・スローンズ』などのプロデューサーであるフランク・ドルジャーが製作総指揮を務めた話題のドラマだ。ドイツ、フランス、中東、日本の合作で、日本からは歌手・俳優の中島健人が参加。コンコルディアのAIを作った天才技術者のA・J・オオバを演じている。
海外ドラマ初挑戦の中島に本誌・大橋希が話を聞いた。
──日本のドラマの撮影現場との違いを感じたところは?
海外ドラマって台本が製本されていないんです。当日撮影する場面の台本が紙で配られ、変更点もその日に知らされる。そこに臨機応変に対応することが必須の世界。日本では感じないプレッシャーはあったかもしれないです。
しかも英語なので、その差を特に大きく感じた。インタビューで英語を使うことはありましたが「表現」は初めてのことなので、まずは当たって砕けてみたらいいんじゃない?と思って臨みました。独特のカメラワークにも驚いて......。クレーンを蛇行させるのを初めて見て、遣隋使や遣唐使の気持ちになりました。小野妹子みたいな(笑)。
中島(中央)は「A・Jを性格の悪い感じに見せたい」と提案したという ©HULU JAPAN──ドルジャーによれば、撮影現場で助言を求めるのは「弱さの表れ」とされ敬遠する人が多いが、中島さんは躊躇せずにそうしていたとか。
確かにそうかもしれないです。いろんな役者さんがいましたが、自分が一番バーバラ(・イーダー監督)やフランクに質問をしていました。
「海外ドラマに初めて出る日本人なのに、いろいろ言ってくるな」と思われそうなくらい、多くの提案もしました。
例えば、A・Jの衣装やキャラクター設定も僕の考えを伝えて、そこから話し合って作っていったんです。僕はA・Jはモックネックを着ているイメージがあったけど、スタイリストからは「最初はシャツにTシャツで優しさを表現し、彼が野心を出すに従ってモックネックにジャケットというオフィスカジュアルへ」という提案を受けました。1~6話までの心理の変化を衣装で表現する、と。
バーバラには「A・Jを作品のアクセントにするため、性格の悪い感じに見せたい」と言ったんです。それならA・Jの助手マチルドは優しくしてコントラストを出そう、という話になりました。
とにかく刺激を受けたかったし、自分の考えがどれくらい海外の現場で通用するのか、勝負したかった。「俺サムライですけど、どうですか?」みたいな(笑)。いいぶつかり方ができたから、本当に素晴らしい「短期留学」でした。
イザベル役のナンナ(・ブロンデル)に「健人のセリフはめったに使わない言葉が多くて、英語を話す私たちにとっても難しい。よく言えるね」と言われたのはうれしかった。
海外の役者さんと同じステージに立てていることが信じられなかったし、自分の人生ではあり得なかったことの連続でした。28歳で撮った『コンコルディア』が、次の未来を切り開いた気がします。
──今年30歳になりソロ活動も始めました。『コンコルディア』に出会わなければ30歳の過ごし方は違っていた?
たぶん全然違いましたね。でも必然的だったし、出会うべくして出会ったと思う。今、自分が人生をより楽しめる方向に歩みを進めることができている感覚です。
僕は刺激を受けたい人間なんですよ。とてつもない刺激を2年前に受けて、だからあの時のセリフをいまだに言えます。
中島健人 英語インタビュー&メイキング映像|Huluオリジナル「コンコルディア/Concordia」──海外ドラマへの出演を意識し始めたのはいつ頃ですか。
いや、出るなんて考えたことなくて。山下(智久)くんすごいなと第三者的な目線でいたので、自分に話が来た時はちょっとビビりました。
仕事で(2020年の)米アカデミー賞授賞式に行ったことが大きいです。『パラサイト 半地下の家族』がアジアの作品で初めて最優秀作品賞を受賞したんですよね。ポン・ジュノも監督賞を受賞し、同じアジア人として自分もこのままじゃいけないって思った。僕の人生観が変わったのは25歳のそのときです。
──英語はどうやって身に付けたのでしょう。
やはり大事なのは現地に行って話すことで、話すためにはシャドーイングです。常に筋トレをしていると体が強い状態が保たれるのと一緒で、シャドーイングをしていると、海外の方と話すときに舌と頭がすぐに復活する。
──作詞を手がけるなど活動の幅を広げつつ、アイドルはやめないと公言している。キャリアを積むにつれ、自分はアイドルではなくアーティストだと言う人も多いですが。
うーん、そこは「Born to be idol(生まれながらのアイドル)」だと思っている。自分の血液はアイドル型で、その血を否定するつもりはないです。だから新しいアイドルの形をつくりたい。
昔よりもアイドルという言葉は強いパワーを持っていると思うし、その言葉が好きなんです。だからアイドルであり、アーティストであり、俳優でもあるっていう生き方でいいんじゃないかな。
考えてみたら、もう2年も海外ドラマに出ていない。断続的でもいいけれど機会をつくって、また新たな自分に出会いたいし、そこにファンのみんなを巻き込みたいです。
ヨーロッパのファンが生まれたら、ヨーロッパでライブをやりたいし、同じようにアメリカでもライブをやりたい。日本でもやりたい。ファンの方を世界中に連れて行くのも夢だし、世界のファンを日本に連れてくるのも夢。それを僕一人でやってもいいし、誰かと一緒でもいい。いろんな可能性を探れると思います。
いま忙しくて一日もオフがない。いろいろなことをやりすぎて、何をやっているのか分からない状態になったりもしますが、それが気持ちいいんです。
あり余っているこのパワーを、今の中島健人から出てくるパワーをフルに使いたい。世間からどんな言葉を投げかけられようと、自分は自分だし、自分の正義と思うものを貫くのがいいんじゃないかなと思いますし。
あと......ありがたいですが本当に忙しいです(笑)。でも今みたいに待ちに待った作品の話をしている時は、やっぱり生きている心地がするな。
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