マンガ家を夢見る高校生を主人公にした漫画「これ描いて死ね」(小学館)の作者とよ田みのるさん(52)は、8月3、4両日、高知市で開かれた「まんが甲子園」に審査員として初めて参加しました。

 20年以上プロのマンガ家として活躍してきたとよ田さんに、マンガ創作の腕前を競い合った高校生の姿はどう映ったのか、インタビューしました。

 《「まんが甲子園」は全国の高校生を対象とした「1枚まんが」の競技大会。33回目の今年は33校146人が参加した》

 夢を持って「まんが甲子園」に来て、マンガを突き詰める子たちを見ると、本当にかっこいいなって思いますよね。高校生のがんばっている姿を見て胸を打たれました。

 僕はそうじゃなかった。ほんと何も考えずに、毎日のんべんだらりとすごしていて。ボケーッとね。ラグビー部に入ったんだけど、ただ部活して友達とだべって、ごはんを食べてみたいな。何もしない毎日に疑問を持たないような人間でした。

 《会場では1チーム3~5人で協力して5時間半かけて作品を仕上げた。ペン約500本を持ち込み、4コマ漫画を描いたチームもあった》

 何かを仲間と一緒に作るっていうだけで、それはとても大きな意味ですよね。みんなが力を合わせてマンガを描いて。一生の思い出になるじゃないですか。僕もこんな青春を送りたかった。

 チームだと、自分だけじゃ見えなかったことが、どんどん見えてくるんです。視野がカッと広がってくる。それを人がたたえると、「カッカッカッ」ってだんだん広がっていく。そういう意識の拡張みたいなのが、すごく楽しいんじゃないですかね。

 《最優秀賞は高岡龍谷(富山)に贈られた。2位は土佐(高知)、3位は米子(鳥取)だった》

 高校ペン児たちを最初に見たときは、無邪気でかわいいなって思った。でも作品を見ると、ものすごくしっかりしている。僕なんかより絵がうまいんじゃないか、みたいな人もいるし。そのギャップが面白いですね。

 高校ペン児たちには、人が読むということを、もっと想定した方がいいとアドバイスしたい。みんなが自分と同じ知識と経験をもっているわけじゃない。独りよがりの世界から視野を広げて、たくさんの人の最大公約数を探していく。そこから何かモノを説明する方法を考えた方が良いかな。

 《8月3、4両日に高知であった「まんが甲子園」は、本選大会。出場した33校は国内外の200校から選ばれた》

 予選で落選してしまう子の作品は、分かりづらいものが多かった。

 でもね、高校生の時は好きなものを描いたらいいんです。しがらみのある大人みたいなこと、今のうちからやる必要ないじゃないですか。今は伸び伸びやるべきです。縮こまって、形だけ整えて、そんなつまらないもの絶対に描いちゃダメだよ。

 まず最初に、マンガを楽しんで描くということ。自分の好きなことを描くという行為が、一番尊重されるべきだと考えています。

 《とよ田みのるさんが初めてマンガを描いたのは25歳だった》

 デビューできたのは30歳。初めて描いたマンガでデビューする人だっているのにね。5年間、うだつが上がらないなあ、やってらんないなあと思って描いてました。でも、せめて世界に爪痕一つを残したいなと思って。

 売れたいとかじゃなくて、自分が生きた証しみたいなものを1個は残したい、納得できるマンガを1本は描きたいって思ってました。

 大事なのはしつこさ、諦めないことです。(バスケ漫画の)「スラムダンク」で顧問の安西先生が「あきらめたらそこで試合終了ですよ」と言うシーンがある。諦めたら終わるけど、諦めなかったら終わらない。しつこく続ける。僕は才能も何も無かったけど、その気持ちだけで、今ここにいると思っています。

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 まんが甲子園って、今年で33年目なんですね。こんな大変なイベントを自治体が毎年やってきたなんて信じられない。

 マンガだって表現手段なんだから、表現できる場があって、たくさんの人が読んで感じ合える場があるというのは、とても尊いことだと思います。

 僕もね、高校ペン児たちの真剣さ、作品に対する真摯(しんし)な向き合い方を見て、初心忘れるべからずだなと。僕も昔はそうだったかもしれないなと、しみじみと思いました。

 一つの作品を、みんなで集まって協力して作るというのは、とても貴重な経験だと思います。そういう仲間たちとも出会える。僕が高校生だったら絶対に応募していたと思うし、参加している子たちがとてもうらやましかったです。

 きっと一生の思い出になると思うので、マンガが大好きなみんなは、まんが甲子園を目指してみてらいかがでしょうか。来年も、まんが甲子園にたくさんのペン児たちが集まるのが楽しみです。(構成・羽賀和紀)

とよだ・みのるさんプロフィール

 1971年、東京・伊豆大島生まれ。2002年、月刊アフタヌーン掲載の「ラブロマ」でデビュー。現在はゲッサン(小学館)で「これ描いて死ね」を連載中。その他の代表作に「金剛寺さんは面倒臭い」など。

 「これ描いて死ね」は全国の書店員やマンガファンの投票で決まる「マンガ大賞2023」を受賞した。

とよ田みのるさんからのお知らせ

 ゲッサンで連載中の「これ描いて死ね」では、主人公たち王島南高校漫研メンバーが「まんが甲子園」への出場権を勝ち取った。

 とよ田さんは、今後の連載に登場するライバル校の作品を公募する。「僕ひとりで33作品を描くと多様性が出せないので、ぜひ個性あふれたマンガを送って欲しい」と話す。詳しくは8月8日の「これ描いて死ね」(6巻)か、8月9日発売の「ゲッサン9月号」で。

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