「観客の前に戻りたい」という思いがディオンの闘病を支えている COURTESY OF AMAZON MGM STUDIOS ©AMAZON CONTENT SERVICES LLC

<筋肉の痙攣などを引き起こすスティッフパーソン症候群(SPS)を患っていると2022年に公表したディオン。歌手としてのステージ復帰を目指す姿を描いたドキュメンタリーが配信中>

歌手のセリーヌ・ディオンがスティッフパーソン症候群(SPS)という難病を抱えていると公表したのは、2022年のこと。

病と闘いながらステージへの復帰を目指すディオンを描いたドキュメンタリー『アイ・アム セリーヌ・ディオン~病との戦いの中で~』が、6月25日からアマゾンプライム・ビデオで配信されている。


予告編の中で、ディオンはファンが恋しいと語り、再び舞台に立つと決意する。「走れないなら歩く。歩けないなら、はってでも進む。でも絶対に立ち止まらない」

ジョンズ・ホプキンス大学スティッフパーソン症候群センターのスコット・ニューサム所長によれば、一口にSPSと言っても症状には幅があるという。

「大半の患者は体を動かしにくくなる」と、ニューサムは語る。「激しい筋肉のけいれんが起きる人も多く、それが原因で転倒することもある」

ディオンが病気を公表したことは、多くの人がSPSを知るきっかけになったとニューサムは考えている。「この病気のことを知る人が世界中で増えている。非常にいい方向への動きだ」

SPSは珍しい自己免疫疾患であり、神経性疾患だ。脳幹に影響が及ぶこともあり、そうなると、物が二重に見えたり、うまく話せなくなったりする。ニューサムによれば、痛みや疲労感、精神的不安定といった「目に見えない症状」もあるという。

「こうした苦痛に日々、立ち向かわなければならないせいで、患者の活動には制限が生じる。社会に出て、人生を楽しむといったことも難しくなる」と、ニューサムは言う。「仕事を辞めざるを得ない患者も実際にいる」

SPSの原因は、はっきりとは分かっていない。だが、免疫システムの中で問題が起き、神経が過剰に興奮するのを防ぐ経路が攻撃されるとニューサムは説明する。

自ら語った勇気を称える

SPSは非常に珍しい病気と考えられてきたが、最近になって、それほどでもないと言われ始めた。ニューサムも「100万人に1~2人というのが通説だった」と言うが、最近の研究では10万人当たり2~3人とされている。

SPSの治療法はまだ見つかっていない。専門家は診断を改善することをはじめとして、治療法を確立する努力を続けている。

「国際的な診断基準を定めようという動きが始まろうとしている」と、ニューサムは言う。「世界中から専門家を集めて既存のデータを調べ、基準をどう見直し刷新していくべきか検討されている。それが次の一手、つまり臨床試験につながるからだ」

ニューサムは、他の病気の患者をSPSだと誤診する例が増える可能性も懸念している。「体に害になる治療を受けることにもなりかねない。知名度が上がったのはいいが、われわれは慎重の上にも慎重を期さなくては」


ディオンがSPSだと診断されたと聞いた時、ニューサムは同情するとともに、病気を公表した勇気に心を動かされたと言う。「本当にすごい人だと思った」と、ニューサムは語る。

「彼女のようにスポットライトを浴びている人にとっては、どんなに難しいことか」

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