『ウィズ』 のリバイバル版がブロードウェイで開幕 JEREMY DANIEL-SLATE
<「マイケル・ジャクソンを超えようとすれば自滅するだけ」... 振付師ジャケル・ナイトが全員黒人キャストのミュージカル『ウィズ』で表現したものとは>
傑作ミュージカル『ウィズ』の新しいブロードウェイ公演がジャケル・ナイトの振り付けで制作されると発表されたとき、一部のネットコミュニティーが沸き立った。
1974年にブロードウェイで初演された『ウィズ』は、児童文学『オズの魔法使い』を原作に、設定を変更して全て黒人キャストで制作されたミュージカルだ。78年には、シドニー・ルメットが監督し、ダイアナ・ロスやマイケル・ジャクソンらが出演した映画版が公開された。
新しいミュージカル版が制作されるというニュースに、旧作を知るファンが盛り上がっただけではない。今日のポップスターや女性ラッパー、R&Bシンガーのファンたちの反響も大きかった。振付師のナイトは、数々の有名スターの印象深いダンスの振り付けを担当してきたのだ。
カーディ・Bとメーガン・ジー・スタリオンによるシングル「WAP」やビヨンセのシングル「シングル・レディース」のミュージックビデオ、ビヨンセが2018年に野外ロックフェスティバル「コーチェラ」で披露した公演にも参画している。
商業音楽界で屈指の売れっ子振付師が舞台へ進出することになったわけだが、古典的名作への敬意を払うことと、自分なりのひねりを加えることのバランスを取るのは、簡単ではなかっただろう。
今年4月、『ウィズ』のブロードウェイ公演が開幕するのを機に、スレート誌のナディラ・ゴフがナイトに話を聞いた。
◇ ◇ ◇――今回、舞台の世界に挑戦しようと思った理由は?
舞台はずっと好きだった。商業音楽のジャンルは、舞台から着想を得て発展してきたと思っている。
それに、私は自分の振り付けを通じてストーリーを伝えたいと思ってきた。人物を表現することを大切にしてきた。今回の舞台は、その集大成だ。
――あなたは、18年のビヨンセの公演で振り付けを担当した。そのような作品を作ることと舞台制作の違いは?
少なくともビヨンセの公演の場合は、ミュージカルとあまり大きな違いがなかった。コンサートは音楽中心になることが多いけれど、私はいつもさまざまな種類のアートを交わらせようとしている。振り付け、ダンス、音楽、ストーリーテリング、そして自分の行動と言葉を理解することは全て、なんらかの形で一体を成すべきだと思っている。
これまで商業音楽分野の振り付けで活躍してきたナイトが舞台の世界へ JEREMY DANIEL-SLATE
――でも、ミュージックビデオと『ウィズ』のような作品では、比較対象となるオリジナル作品の有無という大きな違いがあるのでは?
今回、私たちクリエーティブチームは最初に2週間、1つの部屋に集まって、これまでリリースされた(同じ原作に基づく)作品全てを細かく検討した。そのとき、私たちは、大切な要素、誰もが大切に思っている要素は全て残そうと決めた。
見落とせないのは、『ウィズ』に(黒人の)喜びの要素が含まれていることだ。黒人の高い能力を表現し、「われわれは、心を折られて意気消沈する悲しい奴隷というだけではない」と思わせてくれる。
黒人だって、型破りなことや風変りなことができる。夢を持つこともできる。踊り、歌い、ハーモニーを生み出し、高度なテクニックを駆使し、カッコよくあることもできる。そう思わせてくれる。こうした要素のエッセンスは全て残すべきだと思っていた。
――今回のミュージカル版では、いくつか現代風のアレンジがなされている。フィリップ・ジョンソン・リチャードソン演じるブリキ男がヒップホップを披露したり、ウェイン・ブレイディ演じるウィズが80年代・90年代風のダンスを踊ったり。
こうしたアレンジのうち、あなたが最初から決めていたものと、出演者の強みを生かす狙いで決めたものは、それぞれどれくらいあるのか。
両方のパターンがある。もともと、ブリキ男はカッコよく描きたかった。オリジナルのミュージカルでは、ブリキ男はタップダンスしか踊らない。でも、タップダンスは、全身を使うイメージがあまりない。その点、今回の作品では、体全体を大きく動かして、興奮を表現したいと思った。しかも、それはフィルにもぴったり合っていた。
それに対し、ウェインのような(レジェンド級の)出演者もいる。この場合は、「ここでダンスのシーンになるんだけど、どんなことをやりたい?」と尋ねて、「90年代風のダンスがいいな」という返事が戻ってきた感じだった。
――(映画版でかかしを演じた)マイケル・ジャクソンは途方もなく大きな存在だ。映画で彼が歌った「ユー・キャント・ウィン」のようなナンバーでは、どれくらいオリジナルのミュージカルから着想を得て、どれくらい映画のマイケルから着想を得たのか。マイケルを意識した面があるように、私には感じられた。
最初の段階で、タップダンスを取り入れたい、ジャズっぽさを強めて古典のような感じにしたいと思った。その方向で素晴らしいナンバーが仕上がり、しばらくそれで公演していた。でも、途中で「映画版をもう少し参考にしてもいいかもしれないな」と思い直して、現在に至っている。
けれども、マイケルは人間とは言えないような人物だ。ロボットのような超人と言ってもいい。そのような人間のことは意識しないほうがいい。超えようとすれば、自滅するだけだ。それよりも、(マイケルの映画版の)精神を基に新しいものを作ろうとしたほうがいい。その試みは、成功したと思っている。
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